タイの主食は米と肉。野菜の1人あたりの平均摂取量は1日平均140gで、世界平均(225g)の6割程度と非常に少ない。 糖尿病など生活習慣病を患う人も増えており、健康な食事に対する需要が高まっている。
特に志向を変化させているのが、「アッパーミドル層」と呼ばれる世帯月収8~10万バーツ(約24~30万円)の中流階級の上位層。国の経済発展を背景にこの余裕のある層の人たちが増えており、彼らを中心にスーパーマーケットなどではオーガニック野菜が大人気だ。
こうした食のニーズに対する変化をとらえ、タイの首都バンコクで新規事業を立ち上げた日本人起業家がいる。Empag CEOの齋藤祐介氏と、COOの石崎優氏だ。2人とも日本で外資系戦略コンサルタントとして活躍した後、「東南アジアの農業の基盤になるサービスを作りたい」と、タイのバンコクに現地法人を設立し、2016年2月に事業を開始した。
同社が展開するサービスが「Emfresh」。高品質かつ新鮮な野菜を地元の消費者に届けるというコンセプトで、(1)オフィス向けのデリバリーサービス、(2)ウェブで販売するEコマース、(3)コンドミニアムのエントランスや屋台での出店という3つの販売チャネルを展開している。東南アジアで盛り上がるアグテク系(アグリカルチャーとテクノロジを掛けあわせた造語)のサービスだ。
もっとも利用されているのはオフィス向けデリバリーサービス。Emfreshがオフィスに冷蔵庫を設置し、スタッフがそこに野菜を補充しに訪れる。企業で働く従業員は自分が食べた分だけ代金を支払う、オフィスグリコの野菜版のような配置販売だ。サービス開始から2カ月が経ち、日系企業6社で利用されている。従業員の福利厚生として導入し、価格の全額または半額を負担する企業もある。
オフィス向けのサービスを主に利用するのは、20代後半から50代のバンコクに単身赴任している日本人駐在員。彼らのほとんどはランチを外食で済ませることが多く、肉や米に食生活が偏りがちだ。そのため、手軽に必要な野菜や栄養を摂れるパッケージサラダが重宝されている。
Eコマースを使えば、野菜を単品で注文できるほか、旬の野菜を毎週届けてくれるサブスクリプション(定期購入)のメニューもある。売られる商品はその時によるが、チェリートマトが500gでセール時は110バーツ(約340円)、ベビーキャロットが200gでセール時は55バーツ(約170円)。サブスクリプションの場合、5種類の野菜が入ったボックス(1週間分の量に相当)が1箱400バーツ(約1200円)から用意されている。
このようなEコマースや出店販売のサービスをよく利用するのは、子どもにできるだけ安全なものを食べさせたい外国人駐在員やタイ人の主婦たちだ。石崎氏いわく、サービス拡大のカギはタイ人の潜在顧客層の啓蒙だという。
健康志向が高まっているとはいえ、目に見えない品質よりも、見た目や量など分かりやすさを重視する人がまだまだ大多数を占めている。足元で好調なオフィス向けのサービスを利用している日系企業で働くタイ人たちからアプローチして、リピーター顧客を獲得していきたい考えだ。「野菜の生産者に対してもより高い利益を還元できるようにしたい」とも語った。
(編集協力:岡徳之)
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