東芝は5月6日、現代表執行役副社長の綱川智氏が代表執行役社長に昇格するトップ人事を発表した。6月下旬に開催予定の定時株主総会終了後の取締役会で正式決定する。
事業構造改革の進展に一定の目途が立ったことで新たな経営体制に移行。新体制のもと、成長軌道への回帰の具現化に取り組むことが最適と判断した。
現代表執行役社長の室町正志氏は特別顧問に就任。現在空席となっている代表執行役会長には、代表執行役副社長の志賀重範氏が就任する。
綱川氏は、「厳しい状況の中で東芝グループの従業員の先頭に立って皆を率いる責任の重さを痛感している。私に課せられているのは、新生東芝の実現に向けて信頼回復と強靱な企業体質への変革である。また、エネルギー、社会インフラ、ストレージという3つの注力事業への集中を徹底するとともに、財務基盤の改善を最優先事項として取り組む。特設注意市場銘柄の指定解除による資本市場への復帰を果たし、永続的な発展を遂げられる企業への再生を図る」と語った。
「従業員の力が最大限発揮できるように、現場と経営との距離を近くすることにも取り組む。また、企業風土についても自由闊達で、自由にモノが言える雰囲気を取り戻すことが必須である」(綱川氏)
綱川氏は1955年9月、東京都出身。1979年3月に東京大学教養学部卒業後、同年4月に東芝に入社。入社以来、ヘルスケア分野を担当し、東芝メディカルシステムズ・ヨーロッパと東芝アメリカメディカルシステムズで3回に渡り、約15年間の海外勤務の経験がある。
2004年4月には東芝アメリカメディカルシステムズ社長兼東芝アメリカMRI社長に就任。2010年6月には、東芝メディカルシステムズ社長に就任。2014年6月から東芝で執行役上席常務(ヘルスケア事業グループ分担、ヘルスケア事業開発部長)、2014年7月にはヘルスケア社社長、2015年9月に取締役代表執行役副社長に就任した。
社長選定の経緯については、指名委員会委員長である取締役の小林喜光氏が説明。「2015年9月30日に指名委員会を発足以降、本日までに11回開催しており、そのうち8回で社長交代を審議。さらに、候補者と面談して継続的に検討してきた。社外からの人選を含めて幅広く議論を重ねた結果、最終的には社内候補のみとなり、10人程度に絞り込んだ。東芝を最も知っている人から選ぶのが、新生東芝を成長させる力を発揮できると判断した」と説明した。
「東芝グループの舵取りを任せる人材として、グローバルに展開する医療事業を優良事業として成功させてきた成功体験、経営企画担当執行役として室町社長を補佐し、積年の課題である事業構造改革に目処をつけた実行力、3月に発表した事業計画を取りまとめ、スピード感と行動力を備えた綱川氏がリーダーとして最適であるという結論に至り、全員一致で決定した」(小林氏)
東芝の歴代3社長が辞任することになった不適切会計処理に対する次期社長、次期会長の関与については「第三者委員会の結論を踏襲し、ホワイトであると判断した」と語った。
東芝では、原子力を中心とした「エネルギー」、道路システムや防災システムをはじめとする各種ソリューションを提供する「社会インフラ」、メモリを中心とした「ストレージ」の3つの事業を注力領域と位置付けているが、綱川氏はこれら分野の経験はない。将来の柱と位置位置付けられていたものの、キヤノンに売却した東芝メディカルシステムズを軸としたヘルスケア一筋の経歴だ。
綱川氏は、「会社員生活の中で東芝メディカルシステムズの売却が大きな出来事。だが、評価していただいた企業に移ったことで日本の強い産業がさらに世界に出て行くことができ、医療産業にとってもよかったと信じている。東芝メディカルシステムズの売却は、娘が嫁いだ父親の気分。新たな嫁ぎ先で成長すると信じている。陰ながら応援したい」と語る。
そして、「今、大切だと思っている言葉が『餅は餅屋』。私は3つの注力事業の経験がないが、東芝では自主自立化を進めており、それぞれの事業のオペレーションは各カンパニー社長が進めることになる。プロはプロ。細かいことには口を出さない。私は、しがらみのない経営合理性に基づいた経営判断と自由闊達な風土を作る」と述べた。
その一方で、「事業環境の変化によっては、ポートフォリオの組み替えが必要になることもあるだろう。臨機応変に勝てるところ、強いところに集中したい」としたほか、原子力事業では、がん治療装置としても利用できる重粒子線技術で先行していることを取り上げ、「重粒子線は医療分野に生かせることができる。これが、5年後に大きく咲かないか、ということを考えている」と医療分野への展開を視野に入れていることを示した。
室町氏は、「予期せぬ形で社長就任してからの約10カ月を振り返ると、大変厳しい状況に追い込まれた東芝の再生を果たすためとはいえ、大幅な人員削減、伝統ある家電事業の売却、将来の収益の柱として期待していた東芝メディカルシステムズの売却、給与減額といった緊急対策を行ったことは経営トップとして大きな責任を感じていた。私の進退については指名委員会に委ねていたが、新社長に引き継ぐことになり、私の中でもひとつの区切りがついた」と語った。
次期会長の志賀氏は、「これまで原子力事業を中心にエネルギー事業、社会インフラ事業に携わり、長年に渡って培ってきた国内外の人脈を活用しながら、東芝のプレゼンス向上に全力で取り組んでいく。東芝に対する信頼感、ブランドイメージをどう回復していくかに尽きる」と語った。
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