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【ゆとり記者の古モノ修理記】キヤノン史に残るコンパクトカメラ「キヤノネット」 - (page 3)

山川晶之 (編集部)2016年05月07日 11時00分
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 ここからはキヤノネットについて補足説明したい。調べてみると面白いもので、キヤノンが大衆路線を進み始めるキッカケになったカメラのようだ。当時、キヤノンは高級カメラ専業メーカーであり、バルナックタイプをはじめとしたレンジファインダーカメラを主に開発してきた。それらのカメラは非常に高価であったが、若手社員による「われわれにも買えるキヤノンのカメラをつくりたい」という想いから中級クラスのレンジファインダーカメラの開発がスタートしたとされている。

キヤノンが1952年に発売したレンジファインダーカメラ「IV Sb」(キヤノンウェブサイトより)
キヤノンが1952年に発売したレンジファインダーカメラ「IV Sb」(キヤノンウェブサイトより)

 また、別途試作開発が進められていたEE機構(セレン光電池を使用した自動露出機構)を搭載。電池不要で、シャッターを押せば誰でもきれいな写真が撮れるカメラとして誕生した。キヤノネットは、若手の「われわれにも買える」価格として、1万8800円のバーゲンプライスが設定された(といっても、1960年度の平均月収が約2万円だったため、相変わらず高価な代物だった)。この価格設定にほかのカメラメーカーは「ダンピングだ」と猛反発。週刊文春に「くたばれ!キヤノネット」との記事が掲載されるほどだった。


レンズの周りにある“ブツブツ”の下にセレン光電池が内蔵されている。セレンの発電量に応じて露出が決定される。電池レスで自動露出が使えるというメリットはあるものの、動作範囲はあまり広くなく、野外や明るい室内でないと機能しない。一定以下の光量の場合、シャッターはロックされ、任意の絞りを設定した上でないとシャッターが切れない。セレン光電地は一時期、自動露出機能を搭載するカメラの殆どに搭載されたが、その後、電池を必要とするものの、より高精度なCdSセンサなどに置き換えられていった

 半年発売が伸びたが、1961年1月に無事に発売された。高級機メーカーのキヤノンが普及価格帯の高性能カメラを作ったという評判もあり、1週間分の在庫が2時間で完売するほどの社会現象になったと言われている。事実、2年半で累計販売台数が100万台と大ヒットを記録した。一方で、カメラの高性能化、低価格化に追いついていけないメーカーの廃業にもつながったようだ。その後キヤノネットはシリーズ化され、「キヤノネットG-IIIシリーズ」が販売終了した1982年まで20年を超えるロングセラー商品となった。

 実物を触ってみると分かるのだが、カメラとしての質がしっかりしている。ガッシリした筐体、先進的な自動露出機能、F値1.9と明るく性能の良いレンズなど「モノとしての良さ」と、高い価格競争力が相まって起きたヒットなのだと感じた。

見事復活!…してなかった…

 折角記事にするので、フィルムを装填して試し撮りしてみた。使用したのは富士フイルムの業務用ISO100フィルム。なにせ安く、某カメラ屋では24枚撮り1本184円で買えてしまう。カメラ屋にフィルムの現像をお願いし、出来上がりのころにもう一度訪ねると、スタッフから衝撃の一言を耳にした。

 「1つのコマに複数の写真が重なっていました」

ああああああああああああああ
ああああああああああああああ

 「え!?」という言葉が思わず出てしまったが、どうやらフィルムが巻けておらず、コマが進まないままシャッターが開いていたため、一つの箇所に複数の像が折り重なった状態になっていたようだ。「多重露光」というテクニックもあるが、今回は特にそれを狙ってはいない。

 フィルム室を覗いたところ、真犯人の正体が判明した。巻き上げレバーを引いたとき、フィルムを巻き取る筒の部分「スプール」が回っていなかったのだ。正確には巻き上げレバーを引くと同時に筒は回るのだが、指を置いてみると簡単に滑ってしまう。まさかこんなところにトラブルが潜んでいるとは思ってもみなかった。

矢印の部分「スプール」と呼ばれる個所が滑って、フィルムを巻き上げ切れてなかった
矢印の部分「スプール」と呼ばれる個所が滑って、フィルムを巻き上げ切れていなかった

 やはり一筋縄ではいかないか…とりあえず、カニ目レンチを買ってこようと思う。

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