新たなアイデアが生まれにくい大企業と、アイデアはあるが資金や顧客基盤が十分でないスタートアップ企業。近年は、双方をつなぐプログラムやイベントが各所で生まれているが、その多くは大企業が主となるもので、スタートアップがその企業の下請けになってしまうこともある。
こうした状況を変えるため、大企業とスタートアップを対等な立場にし、どちらにも“実利”のあることを追求したサービスが「creww(クルー)」だ。大企業とスタートアップのコラボによって新たなプロジェクトを生み出す「コラボレーション」と、スタートアップが必要な商品やサービスを大企業から低価格で手に入れられる「マーケットプレイス」の2つによって構成されている。
2012年7月にサービスを開始し、これまでに起業家やアドバイザー、投資家など約1万2000人が参加。2月時点で約1800社のスタートアップが登録されている。ローソンや三越伊勢丹、日本テレビ、オートバックス、ハーゲンダッツなどの大企業が利用しており、すでに約170件のマッチングが生まれ、提携や投資、買収などの協業が生まれているという。
たとえば、森永製菓と知育アプリのスタートアップであるキッズスターがコラボして、チョコボールのキョロちゃんを活用したアプリを開発。また、ユニークな現地ツアーを探せるフリーマーケット「Voyagin」は、地球の歩き方が提供するフリーマガジンに掲載された旅行体験を販売した。大京グループは、TV電話による高齢者の見守りサービス「見守りん」を高齢者向け住宅に導入している。
crewwは、さまざまなスタートアップイベントとも連携している。Googleとは衆議院議員や横浜市議会議員がスタートアップとディスカッションする「CHANGE」を開催。また、野村証券やトーマツベンチャーサポートとともに、スタートアップと大企業のマッチングイベント「TOKYO IGNITION」を開催した。そのほか、サムライインキュベートや、日本テレビなどと共催している。
Creww代表取締役の伊地知天氏は、異色の経歴の持ち主だ。1983年生まれで、16歳の時に単身渡米。その後、日本で2社、米国で1社、フィリピンで1社を起業している。2005年に米国で立ち上げたウェブマーケティングの会社は、米Foxを始めとする600社以上のウェブ戦略をサポート。2009年に開始したECモール事業は翌年に米大手動画配信会社に売却した。2012年にはフィリピンでオフショア開発の会社を設立して後に売却。その会社は現在200人以上の社員を抱える会社に成長している。
そんな、日本では数少ない若きシリアルアントレプレナー(連続起業家)である伊地知氏が、crewwを立ち上げたきっかけは、2011年3月に発生した東日本大震災だったという。震災を受けて一時帰国していた同氏は、これまで海外で培った経験を生かして日本に貢献しようと決意し、当時住んでいた米国の自宅を引き払い、すべての事業を手放して2012年にcrewwを創業した。
「海外と比べて日本は起業率が圧倒的に低く、なかなかスケールしないのは、支援の方法に問題があるから。日本では中小企業とスタートアップがひとまとめにされているが、これは全くの別物。政府の支援も中規模な企業向けのものが多く、スタートアップの人たちの環境を整備する必要があると思った」(伊地知氏)。
しかし、海外生活が長かった伊地知氏は帰国当時、日本で投資家や大企業とつながりを持つ起業家を1人も知らなかった。そこで、ウェブで近い考えを発信している相手を見つけてはゲリラメールを送り、自身の想いを伝えることで賛同者を増やしていったという。こうした起業経験やゲリラメールのエピソードを聞くと、とてもアグレッシブな性格の人物を思い浮かべるかもしれないが、実際に伊地知氏と対面すると、とても物腰が柔らかく謙虚な人物で、そのギャップに驚かされる。
そうした人柄に魅力を感じたからだろう。現在約20人いる社員の3割は経営経験がある元社長。また社外取締役やアドバイザーには、ナイキジャパン元社長の秋元征紘氏、日本テレビ 社長室企画部長の安藤卓氏、インキュベイトファンド代表の和田圭祐氏、paperboy&co.創業者の家入一真氏など、そうそうたるメンバーが名を連ねている。
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