コンピュータソフトウェア著作権協会の「第10回ファイル共有ソフト利用実態調査」(2012年5月)によると、2010年10月以前にファイル共有ソフトを利用していた「過去利用者」は、一般消費者は9.5%、中高生は5.3%だった。一方、2010年10月以降に利用した「現在利用者」の割合は、一般消費者は4.7%と減少しているのに対して、中高校生は7.7%と増加している。
主に、「日本のテレビ番組」(68.1%)、「音楽(テレビ番組以外)」(37.0%)、「ソフトウェア」(11.7%)、「マンガ、コミック、書籍、画像」(8.8%)、「映画・劇場用アニメ」(8.5%)、「海外のテレビ番組」(8.0%)、「アダルト」(6.0%)などのダウンロード経験があるという。中高生は可処分所得が少なく、音楽や漫画、動画などのコンテンツはなるべく無料で入手したいと考えている。そのため、安易にファイル共有ソフトに手を出す中高生は少なくないのだ。
コンテンツ海外流通促進機構(CODA)でも、2010年11月にファイル共有ソフトの利用実態調査をしている。2010年1月に著作権法が改正されてダウンロードが違法となったが、著作権法改正後もファイル共有ソフトを利用するかという質問に対して、中高校生の約4割に当たる37.7%が「今まで通り利用する」と回答している。
しかし、日本国内に住む15~18歳の高校生を対象にしたマカフィーの「高校生のCGM利用実態調査」(2010年9月)によると、約3割に当たる29.6%の高校生が、過去にウイルス被害に遭遇していた経験があるという。コンテンツを無料で入手するために安易にファイル共有ソフトや違法ダウンロードに手を出した挙げ句、ウイルスに感染する例が後を絶たないというわけだ。
最近でこそ、ファイル共有ソフトではなくYouTubeや海外のサイトなどを利用して得ることが多いようだが、中高生は違法行為を軽視する傾向にある。それどころか、ウイルスも軽んじる傾向にあるようだ。中高生のセキュリティ意識について見ていきたい。
近年、中高生がウイルスを安易に作成したり、拡散したりして逮捕や書類送検される事件が目立ってきた。近年起きた事件を紹介していこう。
2014年12月、岐阜県の高校2年男子(16)が不正指令電磁的記録(ウイルス)を作成し、同供用容疑で書類送検されている。男子生徒は、クリックすると自動的に110番に電話をかけてしまうウイルスを作成。ゲームの攻略情報を交換するLINEのグループ仲間たちと共に拡散していた。このウイルスは広く拡散し、少なくとも兵庫県と沖縄県で計1800件を超える無言の110番が相次いだという。少年は「びっくりすると思ってやった」と告白している。
2016年2月には、兵庫県の高校2年男子(16)が、不正指令電磁的記録保管の疑いで書類送検されている。2013年10月から2015年4月にかけて、コンピュータウイルスを作成する「Zeus」というプログラムを自宅のPCに保管していた疑いだ。2011年に刑法が改正され、不正なプログラムやウイルスは作成、保管しただけで処罰の対象となっているのだ。
Zeusに感染したPCでインターネットバンキングにアクセスすると、正規のログイン画面を装った偽の画面が表示され、入力したIDやパスワードが盗み出されてしまう。男子生徒は、海外のサイトから無料でダウンロードしていた。生徒のPCからは、他にも約130種類のウイルスやサイバー攻撃に使われるプログラムなどが見つかっている。
男子生徒は、国際的ハッカー集団アノニマスに憧れ、Twitterでやりとりなどをしており、自らもアノニマスを名乗っていた。アノニマスとやり取りするうちにトラブルとなり、攻撃に備えるために入手したという。生徒は「技術を誇示したかった」と容疑を認めている。
2015年11月には、札幌市の中学2年男子生徒(14)が、やはり不正指令電磁的記録の疑いで逮捕されている。生徒はZeusを海外サイトから無料で入手。海外の匿名掲示板に「Zeus 1万円。サポートつきで販売しています。24時間対応です」などと書き込んでいた。他の不正送金ウイルスも2~5万円で販売していた。
共通するのは、中高生たちがウイルスを軽視している点だ。今の時代、検索すれば情報を得るだけでなく、実物をダウンロードすることも簡単だ。少し知識があれば作成することもできてしまう。彼らにとってはごく自然な行為であり、悪いこととも思っていないようだ。
実際、ある種の中高生たちにとって、特に110番に電話をかけるウイルスは痛快だったようだ。「警察が泡食ってる姿が目に浮かぶ。愉快」「俺もそんなの作りたい」という趣旨の高校生らしきツイートを見かけた。警察を本当に必要としており、ウイルスが本来の業務を妨害することで大きな被害を被った人がいるかもしれないことには想像が及んでいない。
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