果たして、電子ペーパーは読書に向いているのか? この点については、けっこういろいろと調査がされており、先述のように決着がついたとはいえないのですが、筆者が見た限りでは、以下の3つの調査が参考になりそうでした。
(1)「電子書籍は視力低下につながる? 眼科医の先生に話を聞いてみました!」(2011年11月4日 ダ・ヴィンチニュース) (2)「Kindle、kobo、7型タブレット…測ってわかった!電子書籍端末のブルーライト量に“大差”」(2013年3月4日 日経トレンディネット) (3)「電子リーダーと視覚疲労について」(英文。2013年12月27日 PLOS ONE)
(1)は、電子書籍のデメリットとして「目が疲れる」という回答が、70.7%もあった、という独自のアンケート調査の結果を紹介しつつ、ライターと編集者が、電子ペーパーと液晶の端末を使って、実際に3時間連続して読書をしてみた結果をレポートしたものです。
結果としては、電子ペーパーの方が液晶より疲れは少なかったのですが、読書後の視力の変化について、電子ペーパーと液晶で明確な差は出なかったとのこと。
記事中、「目の疲れやすい環境とはどんな環境か」という筆者の質問に対して、前田眼科クリニックの前田利根院長は、こんなコメントをしています。
「液晶の光が利用環境の明るさと極端に異なる場合、このコントラストが目に良くないと言われています(中略)テレビやパソコン、携帯電話、電子書籍の液晶ももちろんこの機器に当てはまります。余談ですが、画面にこの光の明暗がほとんどない電子ペーパーを採用した電子書籍端末は、比較的目が疲れにくいはずです」
(2)では、電子ペーパー端末(Kindle、Kobo)と液晶端末(Kindle Fire)の発するブルーライトを測定したところ、電子ペーパー端末の方がかなり少ないことがわかった、としています。
確かに、上のグラフの左側を見ますと、電子ペーパー端末と液晶端末では、大きな差があることがわかります。
記事後半では、液晶端末でも光量を下げたり、ページの表示色を「セピア」にすればブルーライトの発出量を抑えられる、とレクチャーしています。
最近は、スマートフォンの画面保護シートやアプリで、ブルーライト低減をうたった製品も売られています。AppleはiOSの次期バージョンで、ブルーライトを低減する「Night Shift」機能を搭載するとのことです。
とはいえ、もともと数値の低い電子ペーパー端末の方が安心であることは確かですね。
でも、「表示デバイスによって、見やすさは違いますよ」という点と合わせて、ここで一つ指摘したいのが、「紙の本も、読みすぎればやはり目には良くない」ということです。
そこで、電子ペーパー端末、液晶端末に加えて、紙の本を読んだ際の疲労度を、客観的・主観的に測定・調査したのが(3)です。
この研究は、それまで電子リーダーを使ったことがなかった12人の被験者を募り、紙の本、電子リーダー(Kindle Paperwhite)、タブレット(Kindle Fire)で、約70分の読書を3セットしてもらい、その前後を比較したものです。
目の疲れは、3つの指標で計測されています。一つは、CFF(Critical Flicker Fusion:フリッカー値)と呼ばれる数値。もう一つは、VFS(Visual Fatigue Scale:視覚疲労スケール)、最後に、BPS(Blinks Per Second:毎秒またたき回数)という数値です。
CFFは、点滅する光の「周波数」を増減させたとき、「点滅」と「連続」の認識が変わる(つまり点滅を感じなくなる)点の周波数のことです。この数値は、目が疲れて、視覚の認識機能が衰えると低下すると言われているようです。
VFSは、目の疲れの度合いを、被験者に決まった尺度で答えさせたものです。10段階の数値になっています。
BPSは、まばたきの頻度です。この数値が減ることは、目の疲れを示すと言われています。
上図を見るとわかる通り、CFFに関しては、どの読書方法でも、読書後に低下していますが、特に液晶の下がり方が大きいです(ただしこのグラフは原点がゼロでないので、差が強調されています)。つまり液晶の方が目が疲れています。
VFSに関しても同じような傾向が見られますが、電子ペーパーもけっこう上がってますね。「紙→電子ペーパー→液晶」の順に目の疲れがひどくなっています。
BPSは、明らかに液晶が下がってます。つまり、瞬きの頻度が減ったということで、その分、目が疲れているものと考えられます(下図)。
読書によって目がどのくらい疲れたか、という観点からいうと、紙の本でも一定の疲れがあることがわかります。
電子ペーパーは、紙の本に近い性能ですが、液晶はこれら2つと比べると、少し劣る、という結果でした。
とはいえ、(1)の記事中で、眼科医の前田利根氏は次のように指摘しています。
視力の低下には、遺伝や環境、さまざまな要因が重なり合っていると思われ、実際にその原因は解明されていないといっても過言ではありません。 目の悪くなるメカニズムを一概に説明するのは難しいのです。テレビやパソコンなどが、直接視力に影響を及ぼしているとは言い切れません。
この流れでいうと、表示品質だけでなく、電子書籍を読む端末の取り扱い自体が「疲れ」を招き、それが「目の疲れ」という体感に結びついているのかもしれません。
生まれた時から馴染んでいる紙の本と比べて、スマートフォンやタブレットにしても電子リーダーにしても、まだわずか数年の歴史しかありません。
そうしたものとの「つきあい方」がまだ、人間に備わっていない、まだ「慣れていない」結果、目だけでなくいろいろな「疲れ」を呼んでいるのかもしれないな、とは思いました。
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