ソニーの北米市場でのコンシューマー事業が着実に回復している。
北米のコンシューマー事業を担当しているSony Electronicsのデピュティプレジデントの奥田利文氏は、「北米市場での2015年4~10月の実績は、売上高が計画に対して25%増。付加価値製品に絞り込んだこと、固定費を下げたことで損益分岐点が下がり、利益は36%増となっている。在庫が3分の1に減っているが、売り逃しがない状況が生まれている」と語った。
同社は米国市場での構造改革に2014年度から本格的に着手。「販売会社をゼロから作り直すつもりで取り組んだ」とする奥田氏は、「販売現場にフォーカスするとともに、肥大化した間接組織の適正化に取り組んだほか、商品ラインアップを徹底的に絞り込んで、プレミアムを持ったソニーらしい製品に集中させた」とする。
同社によると、2年前には、北米での取り扱い製品は1800種類もあったが、現在、アクセサリー製品を含めて400種類にまで減少。取引先は150社から15社に絞り込んだほか、40店舗の直営店を閉鎖。「過去の手法はすべて切り捨て、利益とキャッシュフローを改善した」(奥田氏)
2014年度には、4Kテレビとサウンドバーを重点的に展開。これが現在の4Kテレビの販売成果につながっているという。
北米市場では、年間4000万台のテレビ需要があるが、そのうち、4Kテレビの比重は10~15%程度。これが2016年度には3割ぐらいにまで上昇すると予測されている。
「ソニーは、すでに7割が4Kテレビ。ニッチに見えるが、フォーカスしたマーケティング戦略によるものであり、むしろ低価格帯の領域には踏み出さない。大画面、高価格帯には安定した市場があり、そこを狙っていく。2年前には55型が主流であったが、今は65型、75型が主流。年末商戦では、75型が品切れになったほどだ。ソニーは、安い製品が中心となるWalmartとはほとんど取引をしておらず、全米での市場シェアでは5%以下。だが、それを変えるつもりはない。今のポジションを強くしていくことが大切である。売上高は伸びないかもしれないが、利益を確保したい」(奥田氏)
さらに同社は、2015年度にミラーレスカメラとレンズに焦点を絞り込み、訴求する製品をEマウントに一本化したという。「カメラは、市場全体では2桁の減少となっているが、ソニーは2桁成長を実現している」
こうした成長力のベースになっているのは、店頭への販売支援体制の見直しだ。
米国の量販店などの場合には、商品が展示されているだけという場合が多く、実際に試すことができないという場合もある。「この2年間に渡って商品説明などができる店舗を選択するとともに、そこでの人材を育成した」と奥田氏は語る。
その代表的な取り組みがBest Buyとの連携だ。Best Buyが全米に展開している4分の1の店舗にあたる380店舗にショップインショップ「SRE」を設置。ソニーを専門に販売する店員をトレーニングして売り場に配置し、「店舗と一緒になって販売していく体制を作った」という。カメラも、90店舗でショップインショップを展開。説明型の販売体制を確立するとともに、レンズを貸し出すサービスを提供。さらに、コミュニティーを形成して、プロカメラマンの撮影手法などを共有するといった取り組みも進めている。
「Best Buyでは、高級AV製品を取り扱う店員を教育するなど、店員の中にソニーファンを増やしていった。作った製品をばらまくというものではなく、市場の声、現場の声を聞き、これを販売手法に生かしていく」(奥田氏)
2016年度は、さらにハイレゾオーディオに力を注ぐ姿勢を示す。
「Best Buyの店舗でヘッドフォンで視聴できる環境を作り、ソニーの音とはどんなものか、ということを改めて訴求したい。米国では、ストリーミングが中心となっており、日本のダウンロード型の市場環境とは異なる。また、ハイレゾそのものが浸透していないという状況もある。ストリーミングの簡便性とハイレゾによる高い音質が両立するタイミングを待つ必要もある。MP3に慣れた人たちにハイレゾが浸透するには時間がかかると考えている。だが、これは子どもの頃からハンバーガーを食べ慣れた人に、これとは別のおいしいものを提供するのと同じ。最初は麻痺してなかなか味がわからないかもしれないが、地道に活動を進めていきたい」(奥田氏)
2015年8月からBest Buyの70店舗でハイレゾウォークマンとハイレゾ対応ヘッドフォンを展示。スタンドディスプレイを用意して、Best Buyも戦略的製品に位置付けて展開していくことになるという。
米国時間1月6日から開催している「CES 2016」では、ヘッドフォン「h.ear」のワイヤレス版を新たに発表。これを米国市場から発売する。これまでh.earシリーズは、米国で発売していなかったが、これは米国市場でワイヤレス利用が多いことから、需要のある製品から投入したいという判断によるもの。
ソニーグループ役員の高木一郎氏は、「米国市場と対話ができていなかった時代が長かった。期待した結果が出ていなかったのが原因。だが、ここにきて期待した結果が出始めている。米国に特化した地域戦略を打っている」と解説した。
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