前項で、(事業者のやる気さえあれば、ですが)「消える電子書籍」は「消えない電子書籍」にできる、ということが示せたと思います。
となると、「通説」が、「消える電子書籍」の根拠として挙げている、
電子書籍は、紙の書籍と違って本の『所有権』でなく『利用権』を買っているに過ぎない(から「電子書籍は消える」)。
という部分にも、疑いの目を向ける必要があろうかと思います。
さて、確かにKindleなどの利用規約を見ると、「(コンテンツを)販売してるんじゃないよ、利用(使用)を許可しているだけだよ」という趣旨の文言が見えます。これは明らかです。
なんだ、やっぱり「利用(使用)権」じゃん、という声が聞こえてきそうです。
しかし、本当に「所有権」か「利用権」かが問題なのでしょうか? ここでちょっと、思考実験をしてみます。
ある事業者が「電子書籍を『所有権』の形で販売します」とアナウンスし、たくさんの利用者を集めたとします。
この電子書籍は「所有」できるのですから、ユーザーは、自由にダウンロードして手元に置いておけるわけですね。
そしてある日、当該事業者が、事業からの撤退を発表します。
でも安心してください! 電子書籍は「所有」しているのだから、事業者が撤退したって大丈夫……。
本当でしょうか? 実は現在の電子書籍は、DRM(著作権保護管理)という仕組みで、そのままでは読めないように暗号化されたファイルの形で提供されています。
方法はさまざまですが、「このコンテンツの購入者は、確かにこの人である」という確認をしないと、復号化して読むことはできないのです。
その「方法」が、端末だけに紐付いたやり方であれば、端末が動作する限りは閲覧はできますが、何らかの形でサーバと通信して購読確認をするようなしくみだと、確認のタイミングでコンテンツは読めなくなります。
実際、筆者は、ガラケー時代に購入したコンテンツをメモリーカード内に「所有」していますが、どれも読めません。
(読めなくなる理由としては、DRM以外にも、「そのファイルフォーマットが使われなくなった」ということなどもありえますが、現在は、オープンで今すぐ廃れることは考えにくいウェブ技術を元にした、EPUBというファイルフォーマットがほとんどなので、この点はしばらくは心配しなくていいと思います。)
と、なると、元の前提、つまり、
電子書籍は、紙の書籍と違って本の『所有権』でなく『利用権』を買っているに過ぎない(から「電子書籍は消える」)。
が間違っていることになりますね。少なくとも「所有権と利用権の違い(だけ)が原因ではない」、ということがわかります。
(※2015年12月25日13時40分、前提条件についての説明が間違っていましたので、修正しました。)
「DRMがある以上、コンテンツファイルを『所有』できても何の解決にもならない」という事実から、「電子書籍は「利用権」の提供だから消える」という「消える電子書籍」論は、反証されました。
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