売り上げを追うためではない:パナソニックが米企業を1800億円で買収する狙い

 パナソニックは12月21日、業務用冷凍冷蔵ショーケースメーカーであるHussmannを買収することを発表した。買収額は15億4500万ドル(約1854億円)。

 2016年4月を目標にHussmann ParentやClayton, Dubilier & Riceが持つHussmannグループの株式を100%取得し、完全子会社化する。買収後もHussmannのブランドを維持。最高経営責任者(CEO)のDennis Gipson氏やプレジデントのTim Figge氏などの現経営陣は、そのまま残る。

 パナソニック アプライアンス社社長の本間哲朗氏は「Hussmannが持つ北米での強い事業基盤を生かしながら、パナソニック アプライアンス社の12番目の事業部門として位置付け、そこにパナソニックの幅広い製品や技術を組み合わせる。今回のM&Aで食品流通事業をアビオニクス事業に続くBtoBソリューションの2つめの柱に育てたい」と語る。

 パナソニックは、創業100周年を迎える2018年度に売上高10兆円を目指しており、そのうち、BtoBソリューションで2兆5000億円の売上高を計画している。食品流通事業は3000億円を占める計画であり、その中心商材としてスーパーマーケットやコンビニエンスストア向けの冷凍冷蔵ショーケースは重要な製品となる。

 パナソニックは、食品流通分野で日本のほかに中国や台湾、マレーシアでナンバーワンのシェアを持つが、今回のHussmannの買収で食品流通市場として最大規模を誇る米国をはじめ、メキシコやニュージーランドでもトップレベルの製品シェアを持つHussmannの実績と、全米ナンバーワンといわれる保守サービス網を活用できるようになり、事業拡大に弾みをつけることができる。

 「Hussmannのビジネスモデルは、パナソニックが海外で構築したいと考えているBtoBソリューションの姿に近似している。今後は、パナソニックが保有する二酸化炭素(CO2)冷媒技術やフードサービス製品を活用することで、冷蔵製品技術やショーケースプラットフォームを一層強化できるほか、LEDや遠隔監視システムなどの幅広い技術プラットフォームを活用することで、小売業や消費者の接点をより強化できる」としている。

パナソニック代表取締役社長の津賀一宏氏(右)とアプライアンス社社長の本間哲朗氏
パナソニック代表取締役社長の津賀一宏氏(右)とアプライアンス社社長の本間哲朗氏

海外事業を加速するための土台が整う

 パナソニックでは、2018年度までに通常の投資額とは別枠に、1兆円の戦略投資を計上。今回の買収は、そのうちの2割弱を活用する大型買収のひとつになる。

 パナソニック代表取締役社長の津賀一宏氏は、「今回の買収は、不連続な成長に向けた大きな試金石になる。また、グローバル経営を加速させるトリガーにしたいと考えている。海外での成長には現地主導の経営が必要である。パナソニックには37事業部があるが、海外に事業部門の主体があるのはアビオニクス事業だけ。今回のHussmannは、それに続く2つめの海外主導の事業部門になる。当社のグローバル経営に示唆や支援を与えてくれる」と語る。

 パナソニックの食品流通事業は、物流、コンビニエンストストア、スーパーマーケット、外食チェーン、飲料メーカーの5つの業界を対象としており、さらにアプライアンス社、AVCネットワーク社、エコソリューションズ社、オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の4つのすべてのカンパニーが関与する事業でもある。

 この事業において、海外主導の事業体制が整うことは、まさに同社の海外事業を加速するための土台が整うことになる。海外での成長戦略を今後の重要な柱に位置付ける中で海外主導の事業部門の増加は不可欠なものと言える。

 実際、津賀氏は「今回のM&Aは売り上げを追うためのM&Aではない」と断言。「パナソニックが取り組むBtoBソリューションとはどんな事業なのか、その中でどう成長させるのかといったことを深く検討した結果出てきたものが今回のM&A。日本人のグローバル体験を加速し、グローバル人材の確保なども期待できる。金額規模を超えた価値がある」と説明する。

 パナソニックは日本、欧米、海外戦略地域という3つの地域軸と、家電、住宅、車載、BtoBソリューション、デバイスの5つの事業軸を組み合わせた15個のマトリクスの中で6つの分野を重点領域に位置付けている。今回のHussmannの買収は、6つの重点領域のひとつである「欧米×BtoBソリューション」に当てはまるものだ。

 「食品流通で最大規模となる米国市場において、顧客ニーズに対応できる事業基盤が整う」(本間氏)

 会見でビデオメッセージを寄せたHussmann CEOのGipson氏は、「Hussmannは1906年に創業。業界初の冷蔵ショーケースを製造し、食品流通業の変革に取り組んできた。現在でも主導的な地位を獲得している。5000人以上の社員がパナソニックに合流し、“A Better Life,A Better World”を実現できることを期待している」とコメントした。

 HussmannプレジデントのFigge氏は「戦略、商品、人材がひとつになって業界が見たことがない価値を提供できると確信している。当社のすべての活動の中心は顧客。店舗レイアウト、サービス施工、冷蔵システム、商品ショーケース、食品安全、エネルギーソリューションという6つの分野で事業を展開しており、今後も“Living it Like Hussmann”という当社の考え方を継承していく」などと述べた。

 Hussmannの売上高は2014年度実績で10億8400万ドル。そのうち、ショーケースが39%、施工とサービスが30%、その他で31%を占める。今後、Hussmannは、食品スーパー主体の顧客ターゲットを外食や飲料分野へと拡大。ショーケースだけの事業展開からパナソニック製品を加えた展開へと踏み出すことになる。オムニチャネルを活用した新ビジネスの開拓にも取り組むという。

Hussmann子会社化の目的と今後の期待
Hussmann子会社化の目的と今後の期待

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