イーライセンスとJRCが統合へ--2016年2月に新会社「NexTone」発足

 音楽著作権を管理するイーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)は12月17日、事業統合に関する双方の合意に基づき、2015年2月1日をもって合併後の新会社を設立すると発表した。新会社の名称は「NexTone(ネクストーン)」に決定。Next Copyright Agency(次代を奏でる著作権エージェント)をキャッチコピーに掲げ、権利者から選ばれ、利用者から支持される著作権管理事業者を目指すとした。

 新会社の取締役CEOに就任予定で、現イーライセンス社長 兼 エイベックス・ミュージック・パブリッシング社長の阿南雅浩氏は、「レコード会社と著作権保有者、2つの立場から著作権管理事業を見た際、JASRACの独占に対する健全な対抗軸が必要になると考えた」と合併の狙いを説明。エイベックス・グループ・ホールディングスによる2社の株式取得から合併へと進んだ一連の流れについては、「事業統合をスムーズに進めるため」と説明した。


2016年2月に新会社「NexTone」が発足へ

 著作権管理をする範囲は、JASRACが定める区分における「演奏権等」(コンサートなどの興行、カラオケスナックなどでの演奏・BGM使用など)を除く支分権・利用形態が対象。「演奏等」については引き続きJASRACに管理を任せることになるが、数年以内にすべての支分権・利用形態の管理開始を目指すとしている。

 合併後の運営については、イーライセンス、JRCがそれぞれ異なる委託契約約款および使用料規定を設けているため、当面は社内に2つの事業部を設置して対応する。約款および規定の一本化は2017年3月を目途としており、権利者および利用者代表と協議しつつ、適切な約款・規定を設ける方針。

 なお、エイベックスの株式取得による2社の合併に伴い、エイベックスの保有する約10万曲の管理をJASRACから新会社へ移すという一部報道があったが、当初段階での楽曲移行は5000曲程度に留まる見通し。JASRAC側の委託契約約款に基づくと、2015年末の権利移行を逃すと次回は3年後まで待つことになるが、「規約の是非も含め、柔軟な対応をお願いしていくことになる」(阿南氏)と引き続き権利移行の準備を進めるとした。

「柔軟性」と「スピード感」を打ち出す

 「ITの進化による著作権者の広がりや、ユーザーの音楽の楽しみ方の多様化に対応し、著作権管理の方法を進化させる」――サブスクリプション型サービスなど新たな音楽配信方式が次々と登場し、権利者からエンドユーザーまで音楽市場全体に環境の変化が訪れる中で、従来の著作権管理団体に求められる「信頼性」や「正確性」に加えて、「柔軟性」「スピード感」を打ち出したNexToneの戦略は、対JASRACの対抗軸を目指す上でおそらく正しい。

 実際、柔軟性やスピード感といったキーワードは、長く一強状態にあり存在自体が巨大なJASRACには余りなじまない印象だ。「映像配信事業(現在のdTV)を始める際、JASRACの使用料が決まるまでに2年程度かかり、結果として事業計画に支障をきたした」――エイベックス・ミュージック・パブリッシング社長でもある阿南氏の言葉だが、そうした現状の弊害を取り除き、時代にあった対応力を持つことができれば新会社の大きな武器となるだろう。

 一方、柔軟性やスピード感を求めることで、時として信頼性や正確性を担保できなくなる恐れがある。図らずも、当初10万曲規模の楽曲移行を計画していたはずが、5000曲程度に留まったという事実がそれを示してしまった。「時間の壁に阻まれた感もあるが、(音楽出版社などへの)メリットの説明不足、プロモーション不足だった。正直、甘かったと思っているし、力量不足を反省している」(阿南氏)。

 2社が統合することで生まれるメリット、シナジー効果を現状で示しきれていない点も気になるところだ。「それぞれが異なる得意分野を持つため、その実績やノウハウを統合することでシナジーが生まれる」(JRC社長・荒川祐二氏)という説明はあったが、2社のシェアをあわせても全体の2%にすぎないという現状は対抗軸を目指していく上で重くのしかかる。

 「エイベックスの新譜に加え、他のレコード会社が半分でも新譜を預ける形になってくれば、旧譜の移行とあわせてシェア10%は早期に見えてくる」(阿南氏)という見通しをいかに早く実現できるかが鍵となるだろう。

 管理対象に「演奏等」を組み込むためには、JASRACとの協力体制が不可欠となりそうだ。阿南氏によれば、新会社が全国各所に支局・支店を置いて小口の音楽利用者(カラオケスナック、BGM利用など)を対象とした徴収を実施していくことはコストメリットの面などからも考えておらず、JASRACとの役割分担、何らかの技術・システム採用など枠組みを決めて対応していくべきとの考えを示した。

 これは、放送使用における5者会(NHK、民放連、JASRAC、イーライセンス、JRC)の事例を踏襲し、「演奏等」分野においても利用者を交えた取り決めをしていきたいとの狙いが込められたものだが、放送と異なり利用者が少数多岐にわたることに加え、現時点ではJASRACの持つ組織力に頼らざるを得ないとも受け取れるだけに、実現に向けては難航することが懸念される。

 「JASRACと限られたパイを奪い合うこと自体が目的ではない」(阿南氏)との言葉通り、新会社の目指すところはあくまで音楽業界・文化の健全な発展。だからこそ、まずは対抗軸としての一定の存在感が求められる。まずは管理楽曲数の増加とそれに伴うシェアの確保により、業界内での信頼性を高めていきたいところだ。

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