保育業界が2016年1月までに「マイナンバー対応のほかにやるべきこと」とは?

羽野三千世 (編集部)2015年11月09日 14時26分

 「マイナンバー法は、保育業界に新たな危機をもたらす。マイナンバー法への対応以外に、園で準備すべきことがある」--。10月23日、マイナンバー法が保育園・幼稚園の運営にもたらす影響を考えるセミナー「保育園・幼稚園向け危機管理セミナー」(うるる主催)が開催され、保育園・幼稚園の園長先生など約50人が参加した。


アイギス 代表取締役 脇貴志氏

 セミナーの講師を務めた脇貴志氏は、保育園で発生した事故やトラブルへの危機対応サービスを専門とするアイギスの代表取締役である。これまでに、100件以上の園児死亡事故に対応してきた経験から、脇氏は「危機対応は、事故が起こることを前提として事故からの逆算で対策を練ることが重要。マイナンバーの出現により、自分の園ではどのような事故が起こり得るかを考えて準備をするべきだ」と考える。

マイナンバー法をおさらい!番号を集める際の注意点

 マイナンバー法を簡単におさらいすると、同法は正式名称「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」といい、国民1人ひとりに番号を割り振って社会保障や納税に関する情報を一元管理する共通番号(マイナンバー)制度を導入するための法律だ。行政の効率化、公正な税負担、国民の利便性向上が目的とされているが、脇氏は「少子高齢化による社会保障費の増加と納税額の減少を見越して、国民から確実に税金を徴収するための仕組み」と解釈する。

 10月から各自にマイナンバーが記載された「通知カード」が順次配布され、2016年1月からマイナンバーの利用が開始される。法施行から3年間は、社会保障、税、災害対策の3分野のみが利用対象とされ、2018年秋を目途に用途が拡大される予定だ。

 一般企業と同様に、保育園・幼稚園でも法が施行される1月までに、正規職員だけでなくパート、アルバイトを含む全職員のマイナンバーを集めなければいけない。「マイナンバーを提出する職員側は“それが自分のマイナンバーである”ことを証明する必要があり、受け取る園側は“本人確認”が求められる」(脇氏)

 マイナンバーの収集に際して予想される園でのトラブルは「本人確認手続きがなされない」ことだ。

 10月から配布される「通知カード」と、マイナンバーで身分証明ができる「個人番号カード」は異なる。通知カードは、「国民全員の手元に届く個人番号を証明する公的書類」であり、顔写真がついていないため身分証明書にはならない。個人番号カードは、市区町村の役所に申請して発行してもらうものだ。「職員に通知カードを見せてもらってコピーする、給与台帳に番号を控える、というだけでは本人確認をしたことにならない。“顔見知りだから”ではダメで、職員には通知カードと一緒に身分証明書を提示してもらう必要がある」(脇氏)

マイナンバー漏えいは廃園の危機

 脇氏が、マイナンバー法が保育園・幼稚園にもたらす“最大の危機”と警鐘を鳴らすのは、「世間の個人情報保護に対する機運、意識がより厳しくなる」ことだ。


「マイナンバー法漏えい事故は最悪廃園につながる」と脇氏

 マイナンバーは、氏名や住所などさまざまな個人情報と紐づく「特定個人情報」であり、不正利用や情報漏えいに対して厳しい罰則(最高4年以下の懲役、または200万円以下の罰金、または併科)が規定されている。従来の「個人情報保護法」の罰則(6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金)と比較すると、その重さが明確だ。さらに、個人情報保護法は5000件以上の個人情報を保有する事業者が対象だったのに対して、マイナンバー法はすべての事業者が対象であり、「法施行後しばらくは、国民全体の個人情報保護への意識が非常に高くなる」と脇氏は予想する。

 そのような風潮の中で、もし保育園・幼稚園でマイナンバーや個人情報が漏えいする事故が起こったらどうなるのか。「個人情報を漏えいさせるような園に子供を預けるのはやめようという声が上がり、最悪廃園に追い込まれるだろう」(脇氏)

保育業界で最も漏えいが多い個人情報とは

 保育園・幼稚園で講じるべきマイナンバー法対策には、一般企業と同様に、(1)マイナンバーの管理、取得、廃棄に関するそれぞれの「規定策定」、(2)特定個人情報の取扱責任者以外はマイナンバーを扱えいないような「組織的安全管理措置」、(3)取扱担当者は従業員に対する教育など「人的安全管理措置」、(4)マイナンバーが記載された書類を鍵つきのキャビネットに保管するなどの「物理的安全措置」、(5)マイナンバーを扱うPCの特定やアクセス制御など「技術的安全管理措置」--がある。

 それに加えて、前述のように個人情報保護全般に対する意識の変化に備えて、マイナンバー以外の個人情報の管理体制についても再確認する必要があると脇氏は強調する。

 脇氏によれば、保育園・幼稚園から漏えいする個人情報で最も多いものは「写真」だという。「園児を撮影したデジカメや、写真を保存したUSBメモリなどの紛失による情報漏えいが圧倒的に多い。マイナンバー法で写真の漏えいにも厳しくなることが予想されるが、園児を撮影することは成長の記録として大事で、保育園・幼稚園では無くすことのできないもの。だからこそ、今後写真をどう安全管理していくか再考すべきだ」(脇氏)


写真をクラウドで安全に管理するシステム

 セミナーの最後に、写真を安全に管理できる保育園・幼稚園向けの写真販売システム「園ナビフォト 」が紹介された。

 園ナビフォトは、園で撮影した写真をPCからアップロードし、その写真を保護者がPCとスマートフォンから閲覧・注文できるものだ。写真はうるるが運営するクラウドサーバ上で堅牢に保管されるとする。

 写真の販売価格を保育園・幼稚園側が自由に設定できるのがユニークだ。写真の卸値はL版40円、2L版95円、データダウンロード105円。設定した価格と卸値の差額のうち、20%が販売手数料としてうるるに支払われ、残りは園の収入になる。

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