放送と通信の融合した新サービス「i-dio」--2016年3月放送開始へ

 マルチメディア放送ビジネスフォーラムは10月15日、V-Lowマルチメディア放送事業のサービスモデルに関する発表会を開催、放送・通信を融合させたオープンプラットフォーム「i-dio」(アイディオ)の概要について説明した。


「i-dio」(アイディオ)ロゴマーク

エフエム東京の代表取締役社長の千代勝美氏

 エフエム東京の代表取締役社長で、事業全般を推進するホールディング会社「BIC」の代表取締役社長でもある千代勝美氏は、新サービスについて「放送、通信の革新的なビジネスモデルを構築できる」と紹介。スマート化サービスの向こう側、いわゆるビヨンドスマートとは「i-dioが活躍する時代である」と自信を見せた。

 放送法で定められた移動受信用基幹放送に該当するi-dioの特長は大きく3点。携帯端末や車載型の受信機で移動しながら情報が入手できるという携帯性・移動性、不特定多数に対し同時に情報提供可能な一斉同報、映像・音響・データなどさまざまな情報を柔軟に組み合わせたIPデータキャスト(IPDC)の採用だ。

 サービスは全国を7ブロック(北海道、東北、関東甲信越、東海・北陸、近畿、中国・四国、九州・沖縄)に分け、それぞれのブロックで地域活性化につながる情報、安心安全な社会に貢献する情報などを提供する。2016年3月のスタート段階では、まず東京、大阪、福岡の3都市部でスタートし、2019年7月までに全国都道府県での開局を目指す。

アプリベースで受信が可能、i-dioの特長を生かしたチャンネル提供へ

 受信端末については、かねてから準備を進めてきたWi-Fiチューナからの電波をスマホのアプリで受信する方法、V-Alert防災ラジオで受信する方法のほか、新たにチューナ搭載スマホ「i-dio phone」を開発。アプリ版については、Google PlayとApp Storeから間もなくリリース予定となっている。


Android SIMフリースマートフォン「i-dio Phone」

 事業形態としてはハード事業者(VIP)、ソフト事業者(各ブロックのマルチメディア放送)、そして実際にコンテンツを提供するコンテンツプロバイダの3レイヤーで構成。サービスの鍵を握るコンテンツプロバイダには、すでに「アマネク・テレマティクスデザイン」、「TOKYO SMARTCAST」が名乗りをあげており、それぞれi-dioの特長を生かしたこれまでにないチャンネルの提供を計画している。

 本田技研工業で「インターナビ」立ち上げに寄与した今井武氏が代表取締役CEOを務めるアマネク・テレマティクスデザインは、今井氏自身の経験を活かし、主に車載端末向けのチャンネルを提供していく方針だ。「インターナビ」におけるテレマティクスではGPSと通信の双方向性を活かしたビッグデータを活用してホンダ車ユーザーに有益な情報を提供しており、そこに放送が加わるi-dioではより高度で確実性の高いサービス展開を目指す。

 TOKYO SMARTCASTは、従前の「デジタルラジオ」的特長を色濃く残したサービスを掲げている。放送で流した音楽を即座に購入できるシームレス機能、エリア・ターゲット別のクーポン配信、試聴すると貯まるポイント制度の導入など、広告メディアである放送サービスに通信を加えることで高度化する、という方向性だ。サイネージとの連携、緊急時の防災放送の充実といった取り組みも、主要株主であるエフエム東京がかねてより目指してきた方向性と一致するものといえる。

 マルチメディア放送会社では、今後もコンテンツプロバイダの参画を随時募集。新規参入のハードルが高い放送分野においてオープンイノベーションプラットフォームを目指すとしている。

 地上波放送の完全デジタル移行が終了してから4年以上が経過し、アナログ放送跡地利用の最終的な道筋がようやく示された中で、このテーマに取り組んできたマルチメディア放送ビジネスフォーラム、特に中心となって進めてきたエフエム東京関係者は万感の思いでこの日の発表を迎えたことだろう。

移動体放送に対するニーズは未知数、ラジオ局の強みを発揮できるか

 当日の発表会はフォーラムの情報交換部会を兼ねていたこともあり、会場は報道関係者の倍以上の数が集まった関係者でにぎわっていた。フォーラムが活動を開始して8期、エフエム東京を含む在京・在阪ラジオ局がデジタルラジオの構想を立ち上げてからは10年以上が経過しており、この間にさまざまな壁を乗り越えて、i-dioというサービス名称発表と開始までのスケジュール決定、サービス概要の発表に至った。

 そうした熱気に水を差すつもりはないが、サービスが成功するためには難しい課題が存在するのも事実だ。特に気になるのは、「移動体放送」分野がワンセグ、nottvの例を見る限りさほど人気を集めているとは言えない状況にあることだろう。

 アナログテレビ放送のV-High跡地を利用してサービスを開始しているnottvとの違いについて、BIC常務取締役で東京マルチメディア放送代表取締役社長の藤勝之氏は「全国放送とブロック放送、もっと単純には有料・無料の違いがある」と説明したが、そもそも高度な移動体放送にどれほどのニーズが存在しているのか、という点はいまだ不透明なままだ。

 一方で好材料を挙げるのであれば、現時点で唯一の移動体放送成功事例ともいえるラジオの放送局をベースとしている点。特に車載端末向けサービスにおいてはラジオ局としての情報提供ノウハウに加え、HONDA「インターナビ」で培われた自動車メーカー側のノウハウも活かせる。地域密着、安心安全情報の提供という点でもラジオ局の強みを発揮できる場面は多いだろう。

 受信端末を専用機に頼らず、アプリベースでスマホに提供できるようになったこともプラス要素だ。ハードベースでのチューナ搭載が難しいと予想された海外製品、特にiPhoneユーザーに向けて受信環境が整えられたのは大きい。が、多種多様なアプリを相手にスマホを主戦場として画面を占有するのはさすがに分が悪いと考えられるため、やはりメインは車載型ということになるのではないだろうか。まずは今後の戦略に注目したい。


左から、TOKYO SMARTCAS代表取締役社長の武内英人氏、VIP代表取締役社長の仁平成彦氏、BIC代表取締役社長・エフエム東京代表取締役社長の千代勝美氏、BIC常務取締役・東京マルチメディア放送代表取締役社長の藤勝之氏、アマネク・テレマティクスデザイン代表取締役CEOの今井武氏

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