ウェアラブルテクノロジのカンファレンス「Wearable Tech Expo in Tokyo 2015」。今年は、IoTとVRを軸としてテーマに基調講演やトークセッションが展開された。「VRの今とビジネス活用最前線」と題したセッションでは、Team Hashilus代表の藤山晃太郎氏、ポニーキャニオン企画推進本部プロジェクト推進室マネージャーの村多正俊氏、留学情報館代表取締役 大塚傭平氏、モデレーターに上路健介氏が登壇し、日本におけるVRクリエイターシーンにおける活用方法や、ビジネスシーンにおける活用方法のあり方について議論した。
江戸古典奇術をもとにしたマジシャンである手妻師の藤山晃太郎氏。もともとニコニコ動画などで「回ってみた」などさまざまなパフォーマンスの演出などを手がけていた藤山氏は、この数年VR注目してきたという。そこで、VRを活用したさまざまな演出方法やパフォーマンスを模索し始めた。
例えば、ユーザーからカンパを募り、集まったお金で宮古島への旅行の様子を両目と両耳に装着したカメラやマイクで録音し、頭に載せた360度全天周ビデオで録音した様子をユーザーに届け、ユーザーはOculus Riftを通じてその旅行の様子を離れた場所から追体験できる「オキュ旅」を実施。他にも、Oculusと乗馬マシーンを組み合わせた没入感のある乗馬アトラクションを行うHashilusも開発した。2014年のニコニコ動画ではOculus Riftを使ったアトラクションとして人気を博している。他にも、さまざまなVRをもとにしたアトラクションを開発している藤山氏は、「ただVRの映像を見せるだけでなく、やっている風景そのものが見ている人たちにとって惹きつけられるようなものではなければならない」と語る。
「VRは実際に体験している人しか楽しめない。けれども、VRを楽しんでいる人の様子そのものがコンテンツになることで、VRを体験したいと思わせることができる。VRアトラクションと呼べるようなものを突き詰めていきたい」(藤山氏)
藤山氏が開発しているアトラクションは、特別なデバイスではなく既存のものを活用して作り出している。そこにも、VRが特別なデバイスやコストがかかるという印象から脱却するための手法でもあるという。それによって、売るためのハードルの低さを下げつつ、アトラクション演出というニッチなものを軸に展開することでビジネスとしての可能性も追求しているという。
村多氏は、ポニーキャニオンとして2014年12月にハコスコと360VRによる映像事業での戦略的提携を発表。2015年5月にはVRコンソーシアム設立に幹事会員として参加したと話し、企業として本格的なVR領域への参入を行いながら、ビジネスとしての可能性を追求しているという。特に、VRとエンターテインメントとの親和性やマネタイズに関する検証を行うため、これまでに3つのパターンを実践した。
1つ目はライブ会場販売だ。女性アイドルグループによるパフォーマンスが体験できるライブ会場限定バージョンのハコスコを発売したところ、多くの話題を呼びオークションサイトなどで同ハコスコが高値で取引されるようになったという。2つ目はファンクラブ限定に販売したハコスコは、男性ダンスユニットがファンクラブ限定にカスタマイズしたダンスを披露するコンテンツが楽しめるというもの。3つ目は演出やダンス、衣裳などをカスタマイズしたコンテンツを楽しめるハコスコを開発。どれもファンにとってVRを体験するきっかけとなり、かつ、ビジネスとしてのファンやユーザーとのエンゲージメントを高める効果があった、と村多氏は話す。
「社内的にも少しづつVRの理解が広がってきた。まずはハコスコを通じた販売が主だったがまだまだ可能性はある。よりユーザーの欲求や満足を満たすようなコンテンツづくりや、体験型のビジネスを生み出す鍵としてVRを活用していきたい」(村多氏)
同時に、これまでエンターテインメント業界で活動してきた村多氏にとって、VRはこれまでと違った視点をもつきっかけになったが、現在のVR分野ではVR自体の物珍しさなどが先行していまい、コンテンツが置き去りになっていると指摘。コンテンツの質を高めることにもより注力していくことによって、ユーザーの満足度は向上するはず、と話す。
留学情報に関するさまざまな情報やサポートを提供している留学情報館。サービスの軸となるは、現地の様子だが、これまでは写真やビデオなどのコンテンツをもとに情報発信をしていたが、より留学希望者に対して留学生活の生の様子を体験してもらうために、VRをもとにしたバーチャル体験サービスをスタートさせた。
「海外留学では、費用の安さやマンツーマン、きれいな空や海などが注目されがちだが、実際の現地に着いて想像していたものと違った、という声も多くある。ある程度のコストを時間をかけて留学するからこそ、その様子をユーザーはできるだけ知りたいと思うもの。そこで、フィリピン留学VRはリポーターが装着したウェアラブルの360度全天周カメラで撮影した現地の様子をもとに、授業の様子や生活、寮生活をバーチャルで追体験できる仕組みを開発した」(大塚氏)
これまでの情報発信では伝わりづらかった現地の様子が映像から映しだされる。それは、写真やビデオを通じて見栄え良く映しだされたものと違い、より生な様子がそこでは映しだされる。これまでは情報発信の際にはできるだけより良く見せようという形が多かったが、こうしたまさに良い面も悪い面も含めたリアルな様子を伝えることが、結果として留学希望のユーザーに対しての満足度を提供できるものになると大塚氏は考えているという。
現在はまだ開発段階ながら、今後は実際にユーザーにサービスとして提供していく。構想として、資料請求のなかにハコスコを添付して地方のユーザーであっても現地の様子を知りやすくするサービスも考案中だという。「いかにして、これまで情報が届きにくかった人に対して実体験してもらうかを考えていきたい」と大塚氏は話す。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」