家電をスマートフォンで制御する取り組みは、韓国では2009年頃から始まっている。その10年前、1999年にはサムスンが「サイバーマンション」の分譲を開始し、冷蔵庫、エアコン、照明などの家電をインターネット(PC)経由で操作できるようにした。その後スマートフォンアプリからの操作にも対応しているそうだ。多くの家電が、買ったその日からスマートフォンの専用アプリで操作できるのが現状で、さらに専用アプリだけでなく、LINEから「明かりを消して」「エアコンを付けて」などとメッセージを送ることで家電を制御できる仕組みも取り入れられつつある。
単純にスマートフォンから確認、操作できるだけでなく、最近では「家電がやってくれる、予測して教えてくれる」という点も重視していると同氏。例えば、LGのロボット掃除機は内部にゴミがたまってくると、「ゴミを捨ててください」といったメッセージを自動でユーザーのスマートフォンに送る機能を備えている。問題や不具合が発生した際に機械が自らユーザーにフォローを求める機能は、ほかの機器にも導入される動きがある。
同じくLGが9月に発表した「SmartThinQ Sensor」は、IoTに対応していない普通の家電に取り付けて、アプリから制御する製品だ。振動や明かりなどを検知するセンサを備えており、例えば洗濯機に取り付け、振動が止まったのを検知して洗濯が終了したことをユーザーのスマートフォンに通知できる。日本でも1万5000円ほどで発売される予定で、安価に自分の家電をIoTにできることになるだろう。
実験段階のものとしては、備え付けたマジックミラーを見ながら、朝歯みがきしている最中に、そのミラーに表示されるニュースや天気を確認できるというものがある。しかも、そのミラーとキッチンにあるモニタとをネットワーク接続し、歯みがきの間にボディスキャンして、そこから分析した体調に合わせてキッチンにいる妻に作るべき朝食をモニタで提示するといった仕組みも考案されている。
携帯キャリアもIoTに取り組み始めている。オートロックやボイラーに関わる企業と提携し、スマートフォンで防犯カメラを制御できるようにするほか、韓国では各家庭でほぼ備えているオンドル(床暖房)を暖めるためのボイラーをスマートフォンから制御できるようにするなど、さまざまなシステムを実験中。こちらについても、電気の付けっぱなしや何らかの異常をシステムが自ら検知して、ユーザーのスマートフォンに通知するような機能が考えられている。
子供に対してもIoTはすでに導入されている。「IoT幼稚園」と呼ばれるものでは、センサやカメラをシャトルバス、教室、運動場など至るところに設置し、バスでのお迎え時、幼稚園への到着、勉強中など、その都度写真を撮って保護者に送信し、今どこで何をやっているのかが分かるようにしているという。小学校ではスマートフォン上でプログラムをコーディングしてロボットを動かしたり、歌わせたりといったIT教育が盛んだ。
ヘルスケアに関わる分野もIoT化が進む。センサを体ではなく家の各所に設置することで、装着する手間や違和感なしに常時データを収集し、そこから得られた状況を分析して、危険度が高いと思われた時に自動で医療施設に通知し、看護師らから電話をかけて確認してもらうシステムが導入されつつある。そのほか、大企業が社内に設けているフィットネスセンターと連携して社員の健康状態をスマートフォンなどを活用して管理する仕組み、病院の予約、受付、待合室や診察室への移動指示などをスマートフォン1台で完結させる仕組みなども提供され始めている。
こうしたIoTに関わる動きは、主に韓国内で普及させるというより、テストケースとしてノウハウを蓄積し、ワールドワイドに広げていくのが主要な目的だ。2018年の平昌五輪では、50Gbpsの通信を実現すると言われる5Gネットワークの運用を世界に先がけて始める予定で、オリンピックの選手にセンサを付けて競技中のさまざまな情報を取得して提供することも検討中。ソウル市の北村という地域はIoT特区として「何をやってもOK」というお墨付きを政府が与え、巨大な実験場になっている。
これからもますますIoT化に向けた動きが活発になると思われるが、課題はいかにして商用化にこぎ着けるか。さらに、IoT化が進んで全てのモノがつながるようになると、個人情報の問題も表出してくる。利用者がその不安をなくすためにどういった対策を取れるか、セキュリティを高めながらどう便利な社会にするか、というのが今後の課題だと述べた。
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