グランフロント大阪を拠点とするナレッジキャピタルとオーストリアのリンツにある世界的クリエイティブ機関アルスエレクトロニカは、ナレッジキャピタル2階にある「The Lab.みんなで世界一研究所」にて7月26日まで、「Simplicity the art of complexity 複雑な世界の物語展」を開催する。両組織によるコラボレーション企画の第3弾となる今回は、緻密な引き算で物語を語る美学=Simplicity(シンプリシティ)をテーマに、国内外で活躍する2組のアーティストの作品を展示する。
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のセンサブルシティ・ラボ(SENSEable City Lab)のディレクターを務めるカルロ・ラッティ(Carlo Ratti)氏は、建築家、エンジニアとして、未来の都市のあり方を研究すると共に様々な作品を発表し続けている。水を外壁にした斬新なデザインで注目を集めた2008年サラゴサ万博のデジタルウォーターパビリオンをはじめ、現在イタリアで開催中のミラノ万博では、現代の食をテーマにしたFuture Food Districtのキュレーターを務めている。
会場では、世界を可視化する研究を行っているセンサブルシティ・ラボの研究成果として、2011年のTEDでも紹介された、センサーをつけたゴミを追跡し、どう移動しているかを視覚化することでゴミ処理の問題について考えるプロジェクト「Trash | Track」や、ニューヨークを走るタクシー1億7000万台分の移動データを追跡調査して都市のモビリティを持続可能性と共に考えるための調査研究「HubCab」などが紹介されている。
今回のイベントのために来阪したラッティ氏は、「これまで都市計画は建築家や政治家だけで考えられていたが、あらゆるセンサーから集積されるデータを可視化して共有することで、一般市民も参加できるようになった。良い面ばかりでなく問題点も直視しながら、大胆な発想をするのにデータをどう活用していくかについて、この機会にみなさんも一緒に考えてほしい」とコメントしている。
最新のテクノロジーを使って人と自然をつなぐ詩的であたたかい作品づくりによって、インタラクティブアート分野で注目を集めているアート・ユニットplaplax(プラプラックス)からは、展示テーマであるシンプルさを追求した作品と秀作が展示されている。「イマジネイチャー」と題された作品シリーズは、石などの自然の素材から着想を得た想像の世界を、インタラクティブテクノロジを使ってカタチにしたもので、作品に直接ふれると動き出すというフィジカルなインタラクティブアートで、今回はその中から石を題材にした作品が展示されている。
メンバーの久納鏡子氏は「自然の素材が持つ複雑な要素を、幅広い世代が楽しめるよう極力シンプルに仕上げる作品づくりをしている」と紹介。石にふれると様々なアニメーションが映し出される作品は、アメリカインディアンのホピ族が信仰する精霊と日本古来の八百万神(やおろずのかみ)の相似性に発想を得たもので、都市の中ではこうした人工物と自然、デジタルとアナログという二分化の境界が薄れつつあることを伝えようとしている。
作品のキュレーションを担当したプリ・アルスエレクトロニカに所属する小川絵美子氏は、今回の作品を選んだ理由を、あえてビッグデータと石という両極端の題材を取り上げ、その理由を自発的に考えてもらうのが目的だとしている。展示テーマのシンプリシティについても、シンプルとは単なるわかりやすさではなく、考え抜いたからこそ生まれる共通要素であると説明する。
「会場のナレッジキャピタルが掲げるナレッジとは学びであり、それは人から教えてもらうものではなく、答えがあるわけでもなく、自ら考えるしかない。過去の展示もすべてそうだが、見るだけでなく、そこから何かを考えてもらえるきっかけにしてほしい」と語る。
これまでの都市開発は、自然か利便性かという二律背反するアイデアに囚われていたが、テクノロジーの進化でそれらが共存できるようになってきている。両者のギャップを埋めるのがアートの役割であり、今回の展示作品が新たな都市づくりの発想のヒントにつながるかもしれない。
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