VRの可能性を広げたサムスン製ヘッドセット「Gear VR」実機レビュー

 本格的な仮想空間を体験できるとして、近ごろ急速に注目を集めているVRヘッドマウントディスプレイ(HMD)。これまでVRHMDを購入して利用するには多くのハードルがあったが、サムスン電子とOculus VRが共同開発した「Gear VR Innovator Edition for S6」が日本でも発売されたことで、従来よりもVRHMDが身近になったといえる。


日本で初めて発売されたサムスンのVRHMD「Gear VR Innovator Edition for S6」

 今回日本で発売されたGear VRは、実は2代目にあたるもの。Gear VRはサムスンのスマートフォンを装着して使うデバイスであり、利用するには対応するサムスンの専用端末が必要となる。初代Gear VRは、日本では未発売の「GALAXY Note4」専用に開発されていたことから日本では発売されず、GALAXY S6/S6 edgeに対応した新しいGear VRが登場したことで、ようやく日本でも発売されたという訳だ。

 そのため、Gear VRを使用するにはGALAXY S6/S6 edgeが必要なほか、アプリの数も決して多いわけではなく、一般ユーザーに向けた環境が十分揃っているとはいえない。サムスン側も、開発者やVRに関心が高いアーリーアダプター向けの商品として位置づけていることは、あらかじめ覚えておいて欲しい。

  • 作りがしっかりしており、人体に触れる部分にはクッションが備わっているので快適に利用できる

  • 基本的な操作には首の向きと右側面のパッド、そしてその上にある“戻る”ボタンを使う

  • 使用するにはGALAXY S6/S6 edgeを挿入し、Gear VRを頭に装着するだけでよい

 実際にGear VRを装着してみると、その作りが非常にしっかりしたものであることが分かる。顔に接触する前面と、後頭部、頭頂部に接触するベルト部分にはクッションが入っていることから、身に着けた時に大きな違和感を抱くことはないだろう。重量は271gで、GALAXY S6 edgeの重量132gを含めると400gを超えるが、筆者は頭が重くなるという印象はそれほど受けなかった。

 Gear VRを使うには、GALAXY S6/S6 edgeを前面にあるUSB端子に接続してはめ込んでから、Gear VRを頭に装着するだけと非常に簡単だ。装着すると専用のホーム画面「Oculus Home」が現れるので、後は首の向きや本体右側のパッド、“戻る”ボタンなどを使ってメニューを操作し、アプリをダウンロードしたり、起動したりすればよい。スマートフォンやPCの操作に慣れている人ならば、それほど苦労することなく操作できるのではないだろうか。

  • Gear VRのスクリーンショットはこのような形。「Oculus Home」からアプリの呼び出しやインストールなどができる

  • 360度の迫力ある映像を楽しめる醍醐味はVRHMDならではだ

  • ゲームもVRHMDの性能をフル活用できるコンテンツの1つ。写真は宇宙空間を飛行しながら戦闘が楽しめる「Anshar Wars」

 ちなみにGear VR向けに公開されているアプリは、確認した限りでは数十本というところで、多くはVRHMDのインパクトを生かしやすい、ゲームや映像系のコンテンツとなるようだ。海外製のものが多いが、コロプラの「白猫プロジェクト」や、カヤックの「Little Witch Pie Delivery」など、日本製のアプリもいくつか確認できた。ただし、ゲームに関しては、別途ゲームパッドを用意しなければプレイ自体ができないものが意外と多く見られたので、ダウンロード前によく確認する必要がある。

  • 上からRPGアプリ「白猫プロジェクト」、ほうきで空を飛べる「Little Witch Pie Delivery」、バーチャルアイドルのライブを特等席で楽しめる「ユニティちゃん Candy Rock Star VRライブ!」

 Gear VRの楽しみ方は、VRHMDならではの全方位映像を楽しめるアプリやコンテンツだけではない。たとえば「Oculus Cinema」では、映画館を再現した空間の中で、大画面スクリーンで映画を楽しむことができる。こうした活用方法は従来のHMDでおなじみのものだが、汎用のスマートフォンを用いていることから、ダウンロード型からストリーミングまで、楽しめる動画の幅を広げやすいことがメリットといえるだろう。

 ちなみにVRを利用する上では、ディスプレイ解像度の粗さが気になるという声も多く聞かれるが、GALAXY S6/S6 edgeの方が最新のOculus Rift DK2より高解像度で、よりきめ細かな映像を楽しめる。それゆえVRの課題とも言われる“VR酔い”に関しても、筆者が試した限りでは、動きの激しいゲームなどでなければ思いのほか酔いを感じることはなかった。

 Gear VRを実際に使ってみて可能性を感じることは、やはりスマートフォンを用いたシステムという点にある。Oculus Riftと比べた場合、Oculus Riftは基本的にPCで接続するためのケーブルが必須なのに対し、Gear VRはスマートフォンのバッテリで運用できケーブルレスを実現していることから、利用する場所を選ばない。この点は、VRHMDの利活用の幅を広げる上で大きなポイントといえるだろう。

 2つ目は、カメラを備えている点だ。カメラを自由に活用できるようになれば、現実の映像と連動したコンテンツなども容易に作成できることから、ゲームはもちろん、法人向けなどにもVRHMDの可能性を一層高めることにつなげられるかもしれない。

 そしてもう1つは、ケーブルレスながらワイヤレスでインターネットに接続しやすいということ。ネットワークの仕組みを活用すれば、コンテンツのダウンロードやストリーミングだけでなく、たとえば同じ映像を見ている人同士で会話し合えるなど、コンテンツとコミュニケーションの関係性を大きく広げる可能性があるからだ。


3月にスペインで実施されたGALAXY S6/S6 edgeの発表会で、発売前段階のGear VRを筆者が実際に試しているところ。ケーブル不要で楽しめるのは大きな魅力だ

 一方で、Gear VRを本格的に活用しようとなると課題となる要素もいくつか出てくるようにも感じる。最大のウィークポイントはバッテリの持続時間で、筆者が1時間程度さまざまなコンテンツを利用していると、GALAXY S6 edgeのバッテリが半分近く減少してしまっていた。それゆえ連続で使用できる時間は、使い方にもよるだろうが2~3時間程度と推測される。映画を1本見ようとするなら余裕をもって充電を済ませておく必要があるだろう。

 Gear VR自体、一般層に積極的に販売するデバイスではないことからも分かるように、VRHMDはハード面やコンテンツ面でもまだまだ課題があるのは事実。一方で、アプリが揃ってくれば、これほど多くの人が楽しさを実感できるデバイスはほかにない。今後、起こりうるであろう進化を先に体感できるという意味でも、非常に楽しみなデバイスであることは確かだ。

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