大学3年男子D太は、就職活動前にインターンシップをしようとしたところ、先方の企業担当者に断られてしまった。「インターンと言えどもうちの社名を背負って動いてもらうので、こんなメールを送ってくる学生はうちではお断りです」と言われたのだ。タイトルもなしで冒頭で名乗ることもなく、いきなりスマホで「インターン希望」というメールを送ったことで、常識がないと判断されたというわけだ。
D太は、それまでPCメールは送ったことがなかったという。「スマホだけで何でもできるし、困ったことはない。スマホでExcelなどを使って課題を仕上げたこともある」と言い切るD太。普段の友人とのやりとりはLINEが中心で、スマホのメールもほとんど使ったことがなく、「自分のメールアドレスもよく覚えていない」状態だ。
いきなり要件を送ることができるSNSとは違い、メールにはルールとマナーがある。たとえば、分かりやすいタイトルを付け、宛先を明記し、所属・名前を名乗り、挨拶と結びの文をつけ、要件を分かりやすくまとめ、メールアドレス以外の連絡先を署名としてつける……などの必要がある。
依頼する立場としては当然マナーを守って送るべきだったが、D太には初耳だったようだ。「年齢が上の人は、スマホのメール自体プライベートであり、失礼と感じることもある。最初のコンタクトがメールというだけで不快に感じる人もいる」と伝えると、D太は驚いて青ざめていた。就活時に志望企業にこのようなメールを送っていたらどうなっていただろうか。
スマホやSNSを使いこなすのは悪いことではない。便利で楽しいツールのため、プライベートだけでなく就活時にも活用できるはずだ。
しかし、スマホによって経験が狭まりすぎると問題が起きる。動画サイトで新しい文化やコミュニケーションを楽しむことはいい。しかし、スマホの小さな画面では、本来の映像や音楽なども十分に楽しめるとは言いがたく、本来のメディアでなくては得られない体験もあるはずだ。映像や書籍など、スマホでは見られないコンテンツも多い。さらに、使えるツールが限定されていることによって、自分のできることが狭まってしまう。
スマホ文化に閉じこもることによって、社会と隔絶されて常識知らずになる危険性もある。社会人となるためには、一般常識やマナーを身に付ける必要がある。そのようなことを得るためには、大人世代と接する体験も必要だろう。
大人世代はぜひ10代の若者たちに、スマホ以外の体験ができる場や、目上世代と交流できる場を用意してあげてほしい。
高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。
ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/
Twitter:@akiakatsuki
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