スポーツテック最前線

3Dカメラで正しいフォームを教えてくれるロボットトレーナー「SmartSpot」

 スポーツはテクノロジの力によってどうイノベーションしていくのか。スポーツトレーナーの視点から、海外を中心とした最先端の知見と事例を紹介する。今回は「スポーツ×3Dカメラ」をテーマに、3Dカメラを使ってパーソナルトレーナーの代わりをしてくれる「SmartSpot」の取り組みを紹介しよう。


「SmartSpot」

 いくら健康に対する意識が高くても、1時間1万円もするパーソナルトレーナーなんて雇えない。エジプトからの貧しい移民として育ったモアウィア・エルディーブ氏が、経済的に恵まれていない人でもワークアウトをもっと正確に効果的にできるようにと開発したのがSmartSpotだ。

 SmartSpotは、3Dカメラがついたディスプレイ型デバイス。ジムの壁に鏡のように設置し、ユーザーのワークアウトの様子を分析、表示する。約360あるカラダの関節のうち、トレーニングで重要な22の関節の角度を測ってくれる。ディスプレイに表示された数字や矢印を使って、正しいフォームでワークアウトしているかどうかをフィードバックしてくれる。Y Combinatorでは12万ドルを調達している。

 現在、自分のワークアウト動画をもとにパーソナルトレーナーからフィードバックをもらえるサービスを月100ドルで提供している。サンフランシスコには4台のSmartSpotが稼働しており、1つはSomaのWorld Gymにある。

なぜパーソナルトレーナーが必要なのか?

 24時間経営の安価なジムにはトレーナーなどはおらず、なかなかフィードバックをもらう機会がない。そのためジムでの1人でのワークアウト中に怪我をしたりする事故が絶えない。米国では、正しい器具の使い方を知らないために起きた事故の件数が3年間で45%増加しているとの報告(PDF)もある。

 特に重量スクワットなどを正しいフォームを知らずにやると、腰が反りすぎたり背中が丸まってしまう。結果的に急性腰痛やヘルニアなどを引き起こす可能性もある。怪我が起きやすい反面、関節の角度が外からはわかりにくい腰や背中の計測が厄介だ。3Dカメラの精度をあげて計測できるようになれば、今後プロスポーツチームのトレーニング中の傷害予防に役立てられるだろう。

今後のSmartSpotの役割

 リハビリテーションが必要な患者への筋力トレーニングの分析、リハビリ患者と理学療法士とのコミュニケーションへの応用ができるようになれば、さらにビジネスモデルの拡大が見込める。動的なワークアウトよりも、むしろ静的な姿勢で決められた反復運動をすることの多いリハビリテーションにおいて、SmartSpotが役に立つだろう。

 米国のヘルスクラブ業界が224億ドル市場なのに対してパーソナルトレーナー市場規模はまだ84億ドル。先日紹介した500Startupsバッチの「GymTrack」のようにパーソナルトレーナーの代わりになるデバイスや、今回のSmartSpotが普及すれば、安全で効果的なワークアウトをより多くの人ができるようになるだろう。

 ご意見・ご質問はTwitter(@hirokibacardi)まで。

渡邊拓貴(わたなべ ひろき)

2012年カリフォルニア州立大学運動生理学科卒業。早稲田大学スポーツ科学部4回生。専攻はアスレチックトレーニング。ロンドンオリンピックでは障害馬術競技選手の専属トレーナーとして帯同する。以降トレーナーとして各地で活動。

スポーツがテクノロジにもたらすイノベーションをテーマに専門メディア「SportTechBros」を創設。
フィットネス系AppleWatchアプリ「FitWatch」を提供中。

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