シンガポール拠点のヘルスケア系スタートアップ「Healint」が、同社にとって2度目の資金調達をした。調達金額は100万米ドル(約1億2000万円に相当)。同社は、脳卒中の危険を知らせる「JustShakeIt」、片頭痛の改善を促す「Migraine Buddy」の2つのスマートフォンアプリを提供している。
今回の資金調達は、ベンチャーキャピタルであるWavemaker Pacificが主導したもので、シンガポール国立研究財団、日本のグリーベンチャーズなど各国のVCが参加した。資金は主に、Migraine Buddyの海外進出、開発チームの増員に充てられる。進出先は、日本を含むアジア諸国、アメリカである。
Healintのビジョンは、慢性疾患に苦しむ人々にデータを活用して最高の「リモート医療」を提供すること。イギリスにある片頭痛患者を支援する機関Migraine Action(ミグレイン・アクション)と提携し、片頭痛の研究を強化。アプリで収集したユーザーの容態やその変化などのデータは製薬会社に提供し、薬の開発などを支援している。
主力サービスであるMigraine Buddyは、iOS/Android OSに対応。片頭痛に悩む人々が、健康状態を記録・分析し、今後の容態の変化を予測。そして起こった痛みに対処する助けをする。ユーザーがアプリに入力した情報や、片頭痛と関係するといわれる天気などの情報に基づき、90%以上の精度で次に偏頭痛が起こるタイミングを予測するという。
アプリの価格は2.99米ドル(約360円)。2014年7月に配信が開始され、これまでに世界中で10万人のユーザーがダウンロードした。特にユーザーが多いのは、イギリス、アメリカ、フランス。片頭痛の知名度と理解が高い国で多く利用されていると同社は分析している。
使用感は次の通り。まず、片頭痛が始まったと感じたらアプリを起動する。偏頭痛が始まったおおよその時刻(アプリを起動する何分前か)、痛みのレベル(10段階)、心当たりのある原因(ストレス、睡眠不足、体の酷使、不安など心労、食事抜き、アルコール摂取など)、服用した薬の種類を入力する。
ほかにも、薬の服用以外の処置(睡眠、ヨガ/瞑想、屋内での休息など)、痛みが始まった頭や顔もしくは歯の箇所、偏頭痛が治まったらその時刻など、細かい情報を入力する。入力した情報はカレンダー形式で確認したり、外部サービス(Dropbox、Evernote、Google Drive、メールなど)にエクスポートすることも可能。
特徴的なのは、就寝時にスマートフォンを自分の傍らに置いておくだけで、睡眠時間を自動で記録してくれること。これと天気など、外部の情報をアプリが収集・分析し、次に偏頭痛が起こるタイミングを予測する。このようなユーザーの情報は、かかりつけの医師と共有することも可能。医師は専用のダッシュボードでその情報を閲覧することができる。
このMigraine Buddy、実は「頭痛ろぐ」という名称で日本に上陸済み。日本語に対応したAndroid版はすでに2014年に配信されており、iOS版も2015年3月末に配信が開始された。日本は人口の約8%が片頭痛持ちと言われており、読者の中には悩まれている方もいるかもしれないが、徐々にユーザーが増えているようだ。
アプリをダウンロードするのは有料だが、その収益(2.99米ドル)は、先述のMigraine Actionを通じて世界中の医療機関や患者を支援する団体などに寄付されるため、事業運営を賄うためのものではない。主な収益源は、このアプリを活用して製薬会社のマーケティング活動を支援することに対して得られる報酬だ。
企業にとって、Migraine Buddyが収集するデータの価値は高い。ユーザー、つまり患者の容態やライフスタイルなどから、彼らが潜在的に抱えている課題を把握し、新薬などの研究開発にそのまま生かせるからだ。Healintとしては、ユーザーの理解を得ながら情報を収集、分析し、企業に質の高い情報を提供できるか、また特定の企業に偏向しない姿勢が鍵となる。
このアプリがユーザーに提供する「診療」という価値は、従来ならば掛かりつけの医師が対面で提供していたものである。しかしこのアプリを利用するユーザーに限っては、それを少額(2.99米ドル)で享受することができている。ユーザーはHealintを通じて企業に自分のデータを提供することで、サービスを安価で手に入れているのだ。
ビッグデータ技術などがますます高度化しデータがプラットフォームになる時代には、ヘルスケア産業においてさまざまなサービスの低価格化、もしくは無料化が促進されると言われている。Migraine Buddyはこうしたトレンドの先駆者と言えるだろう。
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