3月17日、既報の通り任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)が資本提携を発表。任天堂のIP(知的財産)を活用したスマートフォン向けゲームアプリならびに、多様なデバイスに対応する会員制サービスの共同開発を行うとしている。同日、任天堂取締役社長の岩田聡氏とDeNA代表取締役社長の守安功氏が記者会見を行った。
任天堂は1983年にファミリーコンピュータを発売して以来、一貫してゲーム専用機ビジネスを展開。こうした一貫性を貫いてきた中で、プラットフォーム移行期に円高が重なってしまい収支のバランスを崩してしまったことや、ニンテンドーDSからニンテンドー3DS、WiiからWii Uへとプラットフォームの移行がスムーズに進まなかったことがあった。さらに、近年ではスマートデバイスの普及によって、音楽プレイヤーやデジタルカメラが飲み込まれている状況もあるなかで、ゲームも同じように飲み込まれるのではという見方もあり「ゲーム専用機ビジネスに悲観的な意見をもらうことが多かった」と振り返った。
もっとも他の専用デバイスとは異なり、任天堂のゲーム専用機で動くコンテンツ、ゲームソフトの最大の供給者は任天堂自身であり「コンテンツを誰が提供しているのかは重要なことであるはずだが、ゲーム専用機に対する悲観的な見方はこの前提を無視したもの」と主張。ニンテンドー3DS向けでは、国内でのダブルミリオン(200万本)が6カ月で5タイトル登場したことにふれ、ゲームハードとソフトの一体型ビジネスモデルは今でも有効に機能し「ゲーム専用機の未来を悲観していない」と語った。
一方で、任天堂の強みでありユーザーがもっとも価値を認めている対象が、これまで積み上げてきたゲームソフトやキャラクターなどの「任天堂IP」であり、その価値を最大化するための戦略的な取り組みを行っていくという。その施策としてスマートデバイスを積極的に活用していくというものだ。これ以外にも映像コンテンツ化やさまざまなキャラクター商品化など、多様に存在する伝達手段を柔軟に活用して価値を最大化させていく取り組みが進行中だとしている。
これまで任天堂は、スマートデバイス向けの参入については慎重な姿勢を崩さなかった。岩田氏はその理由として、スマートデバイスでゲームを作ることそのものについて否定的ではなかったものの、コンテンツの新陳代謝が激しく、コンテンツ価値の維持が容易ではないとし、どうすれば価値を維持、発展させながらビジネスを展開できるのかを考えていたという。また、スマートデバイスのゲームビジネスは“楽にもうかる”というイメージもあることに触れつつ、実際には競争も激しくほんの一握りしか成功していないとし「その一握りに任天堂も入らなければ、参入する意味がない。やる以上は絶対の勝算を持って臨む」とした。
スマートデバイス向けに活用する任天堂IPについては特に例外を設けるつもりはないとしながらも、ある程度タイトルは選別していくという。また、過去のゲームタイトルをそのままスマートデバイスに移植することは「一切予定していない」と明言。スマートデバイス向けにIPを活用するものの、プレイスタイルに合わせた全く別のゲームを展開していくという。
具体的なタイトルやゲーム内容などの詳細は触れられなかったが、岩田氏は「さすがに今年中にアウトプットが無いというスピード感では、業務提携をする意味がない。今年中には何らかのアウトプットを一緒に出していく」と語った。
岩田氏は、IPの価値を最大化する取り組みが見えてきたからこそ、今まで以上にゲーム専用機ビジネスに対する情熱や展望を持っているとし、その証明として全く新しいコンセプトのゲーム専用機プラットフォームを開発していることを公表。開発コード名「NX」は2016年にも詳細を発表するという。また、終了するクラブニンテンドーに続く形で、スマートデバイスとゲーム専用機をつなぐ一体型メンバーズサービスを共同開発。あくまでゲーム専用機ビジネスを継続していく方針を主張していた。
今回のDeNAとの提携については、もともと2010年にDeNA側からアプローチしたことがきっかけと岩田氏は振り返る。岩田氏から見たDeNAの強みとして「世界トップレベルのウェブサービスの構築と運営ノウハウ」を挙げたが、DeNAと組んだ理由として、のちの質疑応答で「情熱」と回答。岩田氏は任天堂との協業については多数のアプローチがあったことを明かしつつ「本当に任天堂と組めるのかと懐疑的な姿勢で来るところが多かった。守安さんは情熱を持って接してきて『黒子になってもかまわない』と言ってくださった。エース級の人材も投入することも約束してくれた」と語った。
守安氏は競争の激しいスマートデバイスのゲームビジネスにおいて、他のゲームとは明確に異なる差別化要素が必要であり、その最も明確な要素がIPであるという。モバイルゲーム事業を成長させることにおいて、今回の提携は「考えられる戦略オプションの中で最良のプラン」であるという。
話合いのなかで、議論が深まるほど相互に補完関係にあると感じたという。また両社の企業文化が異なり、合わないのではというイメージについて「全く逆。お互いの強みをリスペクトし、信頼関係をもっている。共同チームを編成することによって、大きな化学反応が起き、新しい価値を持ったゲームを生み出せると確信している」という。資本提携についても中長期的視野に立って強固な信頼関係を構築するため、お互いの強みとなる部分のノウハウを相互に提供しあうことから決定したと語った。
質疑応答の中には、スマートデバイスのソーシャルゲームにおけるマネタイズ手法の“ガチャ”について触れられたところもあった。この件について岩田氏は「任天堂が納得しない方法でビジネスすることはあり得ない」と一言。フリー・トゥ・スタート(基本プレイ無料)、アイテム課金方式のすべてを一律に否定するつもりはないとしながらも「ビジネスとして行き過ぎではないか、子どもに向かって提案していいのかと言われているような方法を任天堂のIPで用いられることは望んでない」として、両社の合意をした方法でやっていくという。
ことビジネスモデルにおいて、岩田氏は「任天堂はあまのじゃくな会社」と前置きしつつ、世の中で主流となっている方式をそのまま導入するのは「我々が取り組むにはつまらない」という。そのため新しいビジネスの構造についても、守安氏とともにさまざまなことを探り試していく考えを示した。そして「もし新しいビジネスモデルの発明ができたら最高」だとした。
岩田氏は抱負として、スマートデバイス向けゲームにおいて、単一のヒットタイトルに依存しているコンテンツ提供元がほとんどだと触れつつ「任天堂IPを活用して取り組む以上は、早期に複数のヒットタイトルを生み出せるようにする」と語った。また従来のゲーム専用機のプラットフォームの定義がデバイス単位だったことに対し、スマートデバイスやPCなど複数のデバイスを取り込むことによって、より多くのユーザーにソフトを的確に提供する「任天堂のプラットフォームの再定義への取り組み」であるとした。
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