1週間のご無沙汰でした。遂にこの連載も10回目、折り返し点まで来ました。おめでとう自分!ありがとう自分!
さて、著作権者の許可が要らない例外規定として、「個人的な複製」「引用」「教育目的の利用」を見て来ましたが、今回はもっと積極的に既存の作品を活用できる場合をご紹介しましょう。
公表作品の非営利での上演・演奏・上映・口述は、一定の条件を充たせば許可・支払なくできます。意外と知られていませんが、著作権法では最重要の例外規定のひとつでしょう。文化が普及する上で、この例外規定の役割は決して小さくありません。
では、充たすべき条件とは何か。3つです。
「(1)非営利目的であること」「(2)観客などから料金を受け取らないこと」「(3)実演家・口述者にギャラを払わないこと」、です。これを全部充たせば、たとえば学園祭のバンドで好きなアーティストの曲を演奏できます。ブロードウェイ・ミュージカルの上演も、映画の上映会もできます。
「非営利」と「入場無料」が別々の条件である点にご注意ください。両方を充たす必要があります。たとえば、いくら学生や非営利団体が主催していても、入場料を取るイベントは対象外です。他方、一般の企業が宣伝目的で入場無料イベントを開催する場合、(2)の「入場無料」にはあたるでしょうが、(1)の「非営利目的」からははずれます。例外規定が使えませんから、そこでバンドが演奏するなら、原則に戻って著作権者の許可を得る必要があります。
特に、(2)の「入場無料」はよく質問を受ける項目です。たとえば単に名目を「レッスン料」「会費」「資料代」に変えても、実態が上演や演奏を視聴する対価であればダメです。他方、会場内でドリンク類を売って通常程度の料金を得るのは許されます。入場料ではなくカンパを得る場合、本当の任意の寄付で実費に充てる程度なら大丈夫でしょうが、実態は強制徴収であれば入場料とみなされるのでダメでしょう。
逆に、(3)出演者などにギャラを払うと、この例外規定は使えないのですね。つまり、その場合は原則に戻って、権利者の許可がないと上演や演奏はできない。なぜかと言えば、出演者にギャラを払うくらいなら、作家にも払ってやれよという趣旨なのでしょうね。気を付けたいのは、対象は「実演家・口述者」で、この「実演家」には指揮者や演出家が含まれるのです。
たとえば、市民ミュージカルならば出演者は市民だからノーギャラでしょう。しかし、演出家だけはプロを招いていて謝礼を払うならば、この例外規定は使えないのです。原則に戻って作家やJASRACの上演・演奏許可を取りましょうとなります。また、ここでも名目より実態を重視しますから、「お車代」と呼んでも実態が謝礼ならばダメです。本当の交通費実費なら、恐らく支給しても問題ないでしょう。
以上の条件を充たせば、たとえ作品に「無断上演禁止」と書いてあっても上演できます。対象は脚本や音楽だけでなく、既存の振付なども使えます。購入したDVDでも、無料の市民上映会などは基本的にできます。
この例外は、意外なほど知られていません。知らないため、権利者に許可を断られて泣く泣くイベントをあきらめたり、あるいは広報をしないでこっそり上演・上映するケースもあるようです。
勿体ないですね。
「非営利の上演・上映」はれっきとした著作権法の例外規定です。作品は、心を込めて上演・演奏され、人々に感動を与えるためにそこにあるのであり、条件を満たすなら堂々と使えるべきです。
もちろん、正面から権利者の許可を頂いて、入場料などしっかり取って上演・演奏するのも選択肢です。また、作品を元の姿で上演・演奏することがOKなのであって、翻訳や実質的な改変には許可が必要です(逆に、既存の訳詞などは使えます)。同じく、上演や演奏の模様をネットにアップするなどの場合には、また別な条件をクリアする必要がありますから、注意しましょう(後の回で説明します)。
同じ条文の規定で、非営利・無償で書籍やCDを一般に貸し出すことも、許可なく行えます。この規定があるから、全国の図書館は業務を行えるのですね。DVDなどの映像資料も貸し出しはできますが、もう少し条件と主体が絞られます。
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