その著作物の利用、できます -入場無料のイベント・上映、写り込み、企画・研究- - (page 2)

福井健策(弁護士・日本大学芸術学部 客員教授)2014年07月18日 11時00分

写り込み、公開の美術などの利用(30条の2、46条)

 次です。「写り込み」とは何かというと、皆さんがたとえばテーマパークに遊びに行ったとします。するとその周辺では、よくキャラクター達がうろついてますよね。大きいネズミさんとか。そこで友達の写真を撮ると、バックに彼らが写ったりするじゃないですか。キャラクター達は著作物ですから、皆さんは無断で著作物を写真撮影したことになります。

 これは「私的複製」(第8回)で良いのですが、私的な公衆送信というものはありませんから、せっかくの写真をTwitterにアップしたりできないことになりますね。困る。ではミッキー達が近づいて来たら追い払わないといけないのか?可哀そうですね。あるいは、友達の写真を撮ったら、Tシャツの胸にハローキティがプリントされていた。よくあることです。

 写真の背景に街角のポスターが写っていた。ポスターはたいてい誰かの著作物(のコピー)です。では、これらの写真はどれもブログにアップできないのか。何かが写り込んだTV映像は放送できないのか。

 実はこれは、できます。2012年に導入された「付随的利用」という規定があって、写真撮影などの際に入り込んでしまった著作物は、利用できます。

 条件は、「(1)写真撮影・録音・録画で著作物を創作する際に」「(2)対象物から分離困難なため入り込んでしまう」「(3)軽微な構成物であること」です。この条件を充たせば、写り込む著作物の種類は問いません。音の入り込みも大丈夫です。たとえばラジオ番組に宣伝カーの音が入ったりしても大丈夫です。むしろ入って欲しくは無いですけど。

 気になるのは「(2)分離困難」という条件です。どの程度なら分離困難な写り込みと言えるのでしょうか。ポスターなんてはずせば良い気もします。あるいは写らないように角度を変えれば良い。Tシャツは脱がせれば良いのでしょうか。ちょっとそれはやり過ぎなので、恐らく、角度をあえて変えるとか人の服を脱がせるところまでは不要なのでしょう。つまり常識で考えます。ただ、あえて特定の作品を撮影のバックに置くとか、ミッキーさんと腕を組んで写真を撮ったりすると、さすがにこの規定では無理でしょう。(まあ、そういうときはミッキーに「ブログOK?」って聞くと早いですね。)

 言うまでもありませんが、あくまで「(3)軽微な写り込み」が条件ですから、写真の中心に堂々と写すのはダメでしょう。

 ただし、実は建築物と公開の美術作品には別な例外規定があって、皆さんの作品の真ん中に堂々と写してもOKです。美術作品の場合にはいわゆるパブリックアートなど、屋外の公開の場所に恒常設置されている作品が対象です。これは、基本的には撮影であれ公衆送信であれ、自由に利用して良いことになっており、権利者の許可が必要なのは「建築物を真似て同じ建築を作ること」「美術作品の複製品を販売すること」など極端な場合だけです。よって、建築物を大写ししたTV番組だって自由に作れますし、それをDVDにして売ることもできるのですね。

企画検討での利用、技術開発のための試験利用、情報解析のための複製等(30条の3、30条の4、47条の7)

 使えるケースの最後は、企画や技術開発のための利用です。これもこの数年で導入された新規定たちです。最後の導入の際に筆者などは口が悪いので、「現に誰も心配していないような利用を『大丈夫ですよ』と言うための規定」なんて評したのですが、実はこれらの規定は結構有益です。

 まず、「(1)許諾などを取る過程やその検討過程での利用」は、許可なく行えます。たとえば、ポケモンを利用した企画を立てる場合、最終的には権利者の許可を貰う訳ですが、検討過程でも企画書などでポケモンの画像を使うことがありますよね。それが許される、という規定です。

 次に、「(2)著作物を利用する技術の開発・実用化の試験のための利用」が許されます。典型例は、新しい録画機器を開発する際に、現に映像作品を録って再生してみないとスムーズに進みませんね。そこで必要な範囲で、既存の映像を録画したり上映しても良いよ、という規定です。

 最後に、「(3)情報解析に必要な範囲での複製など」は許されます。ビッグデータ解析という言葉がありますね。たとえば、ツイッターの膨大なつぶやきを何億と集めて、何時ごろどんなつぶやきが多いかデータを取るのが一例です。ネット上の情報は爆発的に増加していますから、膨大な量のデータを解析すると、人々の行動パターンを分析してビジネスにつなげたり、様々な活用ができるのですね。こうしたコンピュータでのデータ解析などを許す規定です。

 無論、全てはあくまで「企画検討、技術開発、情報分析に必要な範囲での利用を許す」というもので、こうした範囲を超えて人の著作物をネット上で公開するようなことは、基本的には許されません。それでも、企画や研究開発がずいぶんやり易くなる規定で、これもうまく活用したいところです。

(続きは次回)

 レビューテスト(10):企業が宣伝広報イベントを入場無料でおこない、そのBGMとして音楽CDを流した。「非営利の演奏」なので、JASRACなど権利者の許可は不要である。○か☓か。正解は本文を参照!

【第1回】著作物って何?--文章・映像・音楽・写真…まずイメージをつかもう
【第2回】著作物ではない情報(1)~ありふれた表現や、社会的事件も著作物?
【第3回】著作物ではない情報(2)~アイディア、短いフレーズ、洋服や自動車も著作物?
【第4回】著作権ってどんな権利?~著作権侵害だと何が起きるのか
【第5回】著作権を持つのは誰か ~バンドの曲は誰のもの?
【第6回】どこまで似れば盗作なのか ~だってウサギなんだから
【第7回】どこまで似れば盗作なのか(続)~だって廃墟なんだから
【第8回】個人で楽しむためのダビング・ダウンロードはどこまでOKか
【第9回】その「引用」は許されるのか?講義やウェブでの資料配布は?

福井 健策(ふくい けんさく)

弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部 客員教授

1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。

著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全4巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。

専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。

国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku

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