3Dデータを立体物として再現できる「3Dプリンタ」。技術自体は10年以上前からあるが、 本体の低価格化や3Dデータの流通などから、より身近な存在になりつつある。3Dプリンタはクリエイティブにどのような可能性をもたらすのか。また、クリエーターは3D技術とどう向き合うべきなのか。
6月26日に開催されたDMM.comとアドビ システムズの提携会見のパネルディスカッションで、チームラボ代表取締役社長の猪子寿之氏と、ピクシブ代表取締役社長の片桐考憲氏が、3Dを活用したクリエイティブの未来について語り合った。モデレータは、アドビ システムズの栃谷宗央氏が務めた。
議題となったのは、クリエーターやデザイナーは、3Dプリンタの登場によって「3D」とどう向き合うべきかということ。猪子氏が代表を務めるチームラボでは、これまでもプロジェクションマッピングを始め、多くのアートコンテンツを3Dで制作してきた。その経験から猪子氏が語る3Dのメリットは素材の再利用のしやすさだ。
「日本では手描きの方がいいという風潮があるが、3Dで描いた方がその後のクオリティを上げやすかったり、再利用がしやすく効率的になるので、より本質的なクリエイティブのところに時間をかけられる。短期的には生産効率が悪いかもしれないが、長期的にはすごく上がる」(猪子氏)。
これまで映像といえば、テレビやPC、スマートフォンなど「モニタ」の中で見るものが主だったが、今後はよりインタラクティブな存在になっていくと猪子氏は見ている。「プロジェクションマッピングや(六本木のライブハウスの)ニコファーレなどもそうだが、空間そのものがメディアになっていく。投影先が平面ではなく立体になるので、3Dに対応せざるをえなくなる」(猪子氏)。
ただし、最近は完成度の高い3Dデータを安価で販売していたり、無料で配布しているクリエーターも増えていることから、2Dが主戦場だったクリエーターでも3D作品が作れる環境が整いつつあると語った。
一方、ピクシブの片桐氏は、イラスト投稿SNS「pixiv」では、ペイントソフトなどで2Dのイラストを描いているユーザーが多く、3Dには馴染みがなかったとコメント。今後は、新技術などにも抵抗の少ない若手を中心に、最先端の表現を取り入れるクリエーターを増やしていきたいと語る。
「動画は画像の貼り合わせなので、絵描きの人でも初音ミクのPVなどを作れた。3Dプリンタでフィギュアなどが簡単に作れるようになれば、絵からまた別の分野に進出しやすくなる。価格が下がったことも大きいが、『これでいいんだ感』があるかどうかが重要だと思う」(片桐氏)。
続けて猪子氏は、「1人の絵描きがフィギュアまで作れてしまうのは大きい。これまではフィギュアを作るには原型師と製造が分業で、マーケットが成り立たないと作れなかったが、(3Dプリンタによって)趣味の延長で作れる時代になってきた」と語り、これまで漫画中心だった同人市場に自作フィギュアの波が訪れるかもしれないとの見方を示す。
ただし、片桐氏は現状ではプリントに時間がかかりすぎていることから、「注文して手元に届くまでに何日もかかるとテンションがさがってしまう」と指摘。この点について猪子氏は「多くのデータがそのままプリントはできない」と語り、3Dデータを立体的にプリントするためには、何かしら人の手が介入しなければならない現状があると説明。アルゴリズムを自動補正するなど、ソフトウェア側の進化によって、より短時間で3D作品を作れるようになるのではないかと語った。
アドビは1月から画像編集ソフト「Adobe Photoshop CC」を3Dプリントに対応させている。栃谷氏はソフトウェア側の進化という点について、「アドビの人間なのでなかなか言いづらいが、Photoshopだとどうしてもメモリによって動作が(重くなったりする)ということをよく聞く。そこは日々努力していきたい」と、改善に前向きな姿勢を見せた。
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