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どこまで似れば盗作なのか(続)~だって廃墟なんだから - (page 2)

福井健策(弁護士・日本大学芸術学部 客員教授)2014年06月27日 11時00分
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 しかし、とクロ派は逆襲します。だとしても小林作品は構図まで似ているんだぞ【3】。アイディアが独占できないのはわかるが、丸田さんが苦労して見出した廃墟に出かけていって、同じ構図で撮らなくても良いはずだ。撮影時期や色味が違うなんて、プロならその程度の違いはつけるだろうが、最も肝心なところは丸田作品から借りてるじゃないか。

 シロ派は言い返します。いや、撮り方にはセオリーと言うものがある。同じ廃墟に行けば、ベストショットが撮れる場所はある程度必然的に絞られるし、必然的に絞られるようなものを独占されては困る、と。

 裁判所は果たしてどう判断したでしょうか。 シロ(著作権侵害にあたらず)、です。微妙な判断ではありますが、上の写真については筆者もそうかなと思います。

 ただもう一点、下記の写真はどうでしょうか。これも裁判所はシロと判断したのですが、読者はどう思われますか。


 足尾銅山にある電力施設の廃墟だそうです。同じ廃墟・ほぼ同じ角度。丸田作品はモノクロで小林作品はカラーなのですが、色調が抑えめなため、テイストも似ている気がしますね。筆者はこうなるとより微妙な判断になる気もしますが、裁判所が著作権侵害ではないと結論した決め手は、何だったのでしょうか。

 理由:「丸田作品には、ススキがある」

 ……うーむ、ススキか?

 さて、2週にわたって作品の「類似性」を考えて来ました。いずれも大きな論争になった微妙な事件です。前回も書きましたが、現実の作品に触れて考えることで、著作権の射程を身近に考えやすくなりますね。

 その際の考えるヒントには様々なものがありますが、たとえば「この行為が許されたらどんな影響がある?」「逆に禁止されたらどんな影響がある?」と考えてみるのも良いかもしれません。

 廃墟写真事件では、丸田さんは「小林さんのような作品の創り方が許されるなら、人が苦心して撮影した廃墟写真でも著名な写真家が後から行って似た構図で撮って、少しテイストを変えて発表したら商売できることになってしまう」という問題意識を提示しました。

 逆に、スイカ写真事件では、「この程度似ている写真でクロだというなら、もう今後、おいしそうなスイカの写真はどう撮れば良いのかわからなくなる」という危惧の声も上がりました。なるほど、著作権の世界では偶然の一致は許しますが、逆にいえば、あのスイカ写真を見たことのある人は50年から100年もの長きにわたって、同程度に似たスイカ写真は撮れなくなります。それで良いのか。逆に、ここまで似ているスイカ写真を許しては、いわば「パクリ天国」になってしまうのか。

 つまり、「模倣する自由」と「模倣を許す弊害」のバランスが問われます。クリエイターはもちろんのこと、レポートやサークル活動、ビジネスの現場でも、私たちの日常はこのバランスをいかに取るかの連続です。廃墟写真裁判もミッフィー裁判も、「ベストバランスはどこにある?」と私たちに問いかけているのですね。

(続きは次回)

 レビューテスト(7):著作権侵害が成立するためには、「類似性」と、もうひとつ「○○性」が条件になる。正解は本文中に!

福井 健策(ふくい けんさく)

弁護士(日本・ニューヨーク州)/日本大学芸術学部 客員教授

1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。

著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全4巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。

専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。

国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku

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