インターネットの価値を改めて再定義したのが「IoT」--ABBALab 小笠原氏

別井貴志 (編集部) 井口裕右2014年06月11日 10時24分

 急速に熱を帯び始めている「モノのインターネット(Internet of Things:IoT)」への世界的な注目。世の中のあらゆるものがネットにつながり、さまざまなイノベーションをさらに起こし、新たなビジネスチャンスが創出されると期待されているが、具体的に何がどう変わるのかをイメージできない人も多いのではないだろうか。

 IoTとは何か。そしてIoTによってどのようなビジネスチャンスが生まれるのか。スタートアップ企業への投資や支援を行うABBALab 代表取締役の小笠原治氏に話を聞いた(聞き手:CNET Japan編集長 別井貴志)。また、小笠原氏は、6月19日に開催するカンファレンス「CNET Japan Live Summer あらゆるモノがつながる世界~IoTが起こす新ビジネスイノベーション』においてパネルディスカッション「IoTがもたらすビジネスイノベーション」に登壇し、リクルートテクノロジーズのITソリューション統括部 執行役員CTOである米谷修氏、日本マイクロソフトの本部長 技術統括室である田丸健三郎氏、野村総合研究所のIT基盤イノベーション事業本部 上級研究員である城田真琴氏らと共に議論する。

--注目が高まっているIoTについて、現在どう感じていますか? 私自身は、すごく古いキーワードにも聞こえますが、今までIT業界という狭い世界に閉じられていたインターネットが、より広い世界に開かれ、ITがあたりまえのように社会に浸透した時代を象徴する言葉と考えていますが。

小笠原:この業界に長くいる人は、みな古い言葉だと感じるんじゃないでしょうか。IoTという言葉自体は、バズワードで終わるかどうかという議論もありますね。もっといい言葉があればいいんですが、私はもうあきらめてIoTと呼ぶことにしました(笑)。IoTに詳しい専門家とは異なる定義なのかもしれませんが、最近では短期的な定義として「世の中のすべてをクラウドに蓄積し、活用すること。そしてそれを実現するためのデバイスやテクノロジー」という狭い定義にフォーカスしたいと感じています。

 そこでは、「センシング(すべてのものをクラウドに蓄積する)」されたデータに「ロジック(解析・整理する)」を加えることによって、「フィードバック(私たちが活用できる状態になる)」が行われる。それによってどのようなインパクトがもたらされるか、どのような事業が生まれる可能性があるのかを考えていくのです。現在までに生まれているクラウド技術やビッグデータ解析技術といったテクノロジをまとめるキーワードがIoTだと言えるのではないでしょうか。

--私も、IoTという概念には「クラウド」「ビッグデータ」「リアルタイム」「データサイエンス」「M2M」といった、ここ数年にテクノロジーの世界で話題となったキーワードを数多く含み、総括しているのではないかと感じています。

  • 「ネットワークにすべてが蓄積され活用できるIoT」と小笠原氏

小笠原:そういう意味では、20年前に新しい技術革新として「インターネット」という言葉が生まれたのと、同じ状況だと言えるのではないでしょうか。今の世の中、インターネットを「インター(相互につながった)」な「ネットワーク」だと常に自覚、認識して使っている人はいませんよね。すべてのものがネットワーク上に蓄積され活用できるIoTは、改めて“インターネットの価値を再定義”したものだと言えるのではないでしょうか。大事なのは、この「再定義をする」ということです。再定義することで、改めて世の中に与えるインパクトやビジネスチャンスが生まれてくると考えていて、非常にわくわくしています。これは業界内におけるIoTの価値ですね。

--そのインパクトについては、具体的にどのように見ていますか。

小笠原:世の中のあらゆる事象を蓄積するクラウドを支える事業者がAPIを提供することで、その蓄積されたデータをロジックで解析するノウハウを持つ事業者が登場して、この「クラウド+ロジック」にお金を払う事業者が現れる。そしてそれを活用した事業者によって、よりよい商品やサービスが生み出され、消費者はお金を払います。このような世の中の動きを支えるプラットフォームとして、すべての人びとの手元にいつでも身につけて利用できるスマートフォンなどのコンピュータがあるのです。これが、IoT時代のエコシステムだと言えるしょう。

 私たちは、改めてすごい時代を生きているのではないかと感じています。つまり、古くはマイコン時代から、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツといった先駆者によってコンピュータがパーソナライズされる歴史の転換点を生きてきたわけです。インターネットが登場してから20年。そして、これからの20年でIoTの概念が完成すれば、人間と機械の境界、リアルとネットの境界といったものはなくなるのではないでしょうか。

 20年前のインターネットの登場時も同じような期待があったのかもしれませんが、当時はまだデバイスの普及状況や業界の考えなどが、さまざまな面において至っていなかった部分があると感じています。今は、インターネットをベースにあらゆることが考えられ、かつIoTという再定義がなされることで、リアルとネットの境界がなくなることも想定できるのです。そこでは、リアルから何かが起きるのではなく、まずネット上にリアルな事象が蓄積され、ビッグデータ解析などの手法を加えることによって解析・分析されてロジックが与えられることによって、リアルにフィードバックされるのではないかと思います。

 これからの20年は、IoTによって色々な境界がなくなることで、さまざまなものごとに再定義が生まれ、今まで感じなかったようなことが、もっともっとおもしろくなるのではないかと思います。

--本当に面白くなりますか?(笑)。あえて懐疑的にお聞きしますが。

小笠原:IoTとは少し離れますが、たとえば講演やインタビューを全文掲載する「ログミー」というサイト、サービスが面白くてよく見ています。いまは人が手作業で音声を書き起こしていると思いますが、ボイスレコーダがネットにつながって録音した音声がその場でクラウドにアップロードされ、自動的にテキストに起こしてくれるようなサービス、承諾があればそれをネットで公開できるようなサービスが登場すれば、とても面白いのではないかと感じています。編集者のフィルタを一切通さない生の声を伝えることは、メディアが整理する報道の価値の対局に、新たな報道の定義を生み出すかもしれません。

 また、コーヒーカップがクラウドとつながって「どんな飲み物が飲まれているか」「どれくらいの頻度で使われたか」といったデータが蓄積されれば、コーヒーカップを作るメーカーにとっては貴重なマーケティングデータになるかもしれません。視点を変えればおもしろいことはいくらでも見えてくると思います。いま消費者が使っているデバイスを置き換えるような“再発明”が、どんどん起きるのではないかと期待しています。

--IoT時代は、さまざまなビジネスのやり方を変えるような気がします。その中でもハードウェアビジネスは、これまでなかなかスタートアップ企業が展開するのは難しかったと思いますが、アイデアと攻め方次第で、スタートアップ企業でもいきなり世界を相手にビジネスが展開できる時代になったと感じます。

小笠原:IoTによって、企業のプロダクトマーケティングや製造・販売といった活動の在り方は、大きく変わるべきではないでしょうか。

 たとえば、既存のビデオカメラに接続するだけでライブ配信できる「LiveShellシリーズ」などを手がけるCerevoの岩佐琢磨氏に聞いたことろでは、彼らはソーシャルメディアにあるニッチな人たちの声を吸い上げて何が売れるかをリサーチして「売れる」と思える商品を企画し、部品調達や製造をさまざまな国の企業とインターネットを通じて行い、ニッチな商品をインターネットを通じて世界中に販売しています。ひとつの国で1000個でも売れれば利益が出るグローバルニッチ戦略を展開しているのです。大手企業が数年かけて世に出すような製品を、Cerevoがニッチ市場を相手に先取りして展開できるのは、会社自体がインターネットにつながることで「何が売れるのか」「どこに市場があるのか」「誰が協力してくれるか」を察知できるからなのです。企業そのものがインターネットにつなががることも、IoTのひとつだと言えるのではないでしょうか。

--さまざまなことが再定義され、わくわくするこれからの20年で、小笠原さんは何をしますか。

小笠原:すべてが再定義されるこれからの流れ、すべてがインター(相互)につながっていく流れが楽しみで仕方がないですね。その楽しみを伝える術として、世の中のあらゆる事象がクラウドに蓄積され、ロジックで解析されたものをハードウェアを通じて多くの人にフィードバックするという流れが生み出せればと考えています。もちろん、その過程でさまざまなことが起きるのではないかと思いますが、世の中に支持された製品やサービスが新時代を牽引していくでしょう。私もアントレプレナーとして、アイデアを形にすることで「僕はこうやりたい。みんなはどうだ?」と世に問うていきたいと思います。

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