ケイ・オプティコムを始めとする地域系の光通信事業者や、ケーブルテレビ事業者、自治体など222の企業・団体は、総務省に対しNTTによる“光アクセスの「サービス卸」”に対する要望書を提出したことを発表した。
NTT東西による光サービスの卸売が、固定通信の競争を阻害しNTTグループの再統合につながるなど与える影響が大きいとして、公の場での議論と必要な制度措置を求めた。
今回の要望書提出の背景には、5月13日にNTTが、NTT東西の光サービスの卸売を、2014年の第四半期以降に開始すると発表したことがある。卸売の実現によって、さまざまな事業者が光回線の設備を持つことなく独自のサービスを提供できるようになるほか、NTTドコモが卸を受けて固定回線のサービスを提供し、固定回線とモバイルとのセット契約による割引、いわゆる“セット割”を実現できる可能性が高まることから、注目を集めている。
関西で光サービスを提供するケイ・オプティコムの代表取締役社長である藤野隆雄氏は、「我々はNTT東西に頼らず独自のネットワークを敷設し、ブロードバンドサービスを展開してきた。NTTによる光サービス卸は、制約なく他の事業者にサービスを提供できるもの。競争ルールを歪めてまで、一部の事業者が有利になる政策の導入には断固反対だ」と、NTT東西の光サービス卸に強い警戒感を示した。
日本ケーブルテレビ連盟の専務理事である松本正幸氏も、「ケーブルテレビは地域の独立性を確保するべく、自律的な発展が必要であり、将来を俯瞰した中長期的な取り組みをしているところ。それに対してNTT東西の光サービス卸は、あまりにも唐突なもの」と、やはりNTTの取り組みに疑問を呈した。その上で松本氏は、「要望書を機会として、公正な競争に基づく議論が求められることを期待する」と話した。
今回提出された要望書は、総務省・情報通信議会の「2020-ICT基盤政策特別部会」で、2020年に向けた通信競争政策に関する議論が進められている中、NTTが一方的に光サービスの卸売を発表したことを問題視しているとのこと。そこで要望書では、光サービス卸が競争に及ぼす影響について公の場で議論を尽くすことと、公正な競争を阻害しないよう制度措置を設けること、そして制度措置が設けられるまで、NTT東西の光サービス卸が提供されないようにすることの3つを、総務省に求めている。
では、要望書を提出した事業者・団体は、NTT東西の光サービス卸について、どのような点が問題と考えているのだろうか。1つはNTT東西の光ネットワークが、電電公社の独占時代に築かれた設備を用いるなど、NTTでないと構築できないものであるにもかかわらず、卸によって取引の透明性が失われ、現行の制度に逸脱した公正競争の阻害をもたらす可能性があることだ。
従来の接続約款を用いた相互接続による取引であれば、取引の透明性を保つことができる。だが光サービス卸では相対での取引となり、NTT東西が自由に料金設定できるため、取引の内容が不透明になる。「取引相手によって割引が入り、その割引額を原資とした料金施策を仕掛けられたら、我々は競争できなくなってしまう」と、藤野氏はその問題点について話した。
2つ目は、NTTグループの再統合につながる可能性があるということ。固定回線でトップシェアを誇るNTT東西の光回線を、やはりトップシェアのNTTドコモが取り扱えることは、ドミナント事業者間連携による市場支配の拡大を生むと指摘。さらにNTT東西の光回線とNTTドコモのモバイル通信の卸を受けて、NTTのサービスを総合的に扱う新会社をNTT自身が脱法的に設立し、事実上NTTグループを再統合してしまう可能性もあるとした。
そして3つ目は、設備競争が消滅することだという。ドミナント事業者であるNTT東西の光回線を、強力な顧客基盤を持つ携帯電話事業者が卸を受けてサービスを提供する。このことは、携帯電話事業者が固定通信市場を支配することにもつながり、各地の固定通信事業者は撤退を余儀なくされ、NTTによる固定通信市場の寡占や設備の独占、さらには技術進化の停滞も招く可能性があると指摘した。
その上で、従来地域系の光通信事業者や、ケーブルテレビ事業者が競争で果たしてきた役割についても説明がなされた。特に100Mbps、1Gbpsといった高速通信を実現するサービスの低廉化においては、地域通信事業者との競争が大きく影響したほか、設備事業者間の競争を促進し、信頼度を高めることにも、競争が大きく寄与したという。また災害などに備え、複数の通信事業者を組み合わせて通信の冗長化をする上でも、NTT以外の通信事業者が存在することは重要な意味を持つとした。
それだけにNTTの光サービス卸に対しては、「いわゆる“セット割”にとどまる話ではない。NTTの独占が進み、設備・サービスの競争が損なわれることに問題意識を持っている」と、松本氏は危機感をにじませる。
また藤野氏も、「取引の公正さと透明性の両方が担保されなくてはいけない。競争事業者とシェアが互角になるまでは規制が必要。1つの考え方としては50%」と、NTT東西のシェアが低減するまでは非対称規制の継続が必要との考えを示した。
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