ロボットが急速に身近な存在となりつつある。GoogleによるSCHAFT(シャフト)をはじめとした一連のロボット企業の買収など、我々の日常にロボットがいる時代はそう遠くないと予感させる話題も多い。5月初めに中国・北京で開催されたイベント「GMIC北京 2014」では、日本のロボット専門家のセッションが大きな話題を集めた。会期中、ロボットに関する3つのセッションをまとめる。
GMICはGlobal Mobile Internet Conferenceの略で、モバイルのイベントだが、スマートフォンのコモディティ化を受けてハイテク業界では次のトレンド探しが始まっている。「ロボットはスマートフォンよりも理想的なインターフェース」と話すのは、大阪大学教授でATR石黒浩特別研究室室長の石黒浩氏だ。初日、メインステージのトップバッターとしてスピーチした石黒氏は、ヒューマノイド(人型)ロボットの「ジェミノイドF」と共に登壇し「ロボット社会はすぐそこ」と語った。
なぜヒューマノイドロボットがスマートフォンより理想的なのか、なぜロボット社会が実現するのか――「人間は人間を認識する脳を持つから」というのが石黒氏の答えだ。現在、我々が使っているスマートフォンやPCよりもヒューマノイドロボットのほうが自然、ということになる。つまりロボットに「人間らしさ」が求められるが、これこそが石黒氏の研究課題である。
ロボットはどれほど人間らしいのか。たとえば人間は絶えず目や頭など体を動かしている。ステージ上のヒューマノイドはそういった人間らしさをすでに身につけていた。自然とはいえないが、顔を動かしたり瞬きをしたり。同じ行動に対し、常に同じ反応をするのではなく、たとえば肩を何度も叩かれると怒るといった人間らしいメンタルも実装している。石黒氏は2012年のバレンタイン時期に合わせて新宿タカシマヤで登場させた、ツイートをするジェミノイドFが10日間で100以上のフォロワーを獲得したことや、香港のショッピングセンターで歌を歌うアイドルとして登場させたことなどの実績を挙げた。
人間らしさの実現にあたって最も難しいのは音声認識だという。「自然な環境で信頼でき、かつ安定した音声認識技術は難しい」としながらも、感情や論理的情報などの人間らしさは克服可能と石黒氏は述べる。怒ったときに語句を強めるといった感情は共有可能であり、論理的情報はネット上のWikipediaやGoogle検索にアクセスすることで得られる。かなりのことが可能になっているようだ。
音声認識と自然言語による会話は改善の余地があるが、ほかのやり方でサポートできる。たとえば、あるデパートでの実験では、声の代わりにタブレットを使ってやりとりしながらロボットが接客をしたところ、1日で40人に商品が売れたという。人間が1日に対応できるのは20人というから、ロボットの方が圧倒的にパフォーマンスが良いといえる。
石黒氏は自身の経験として、自分のアンドロイドを外国に送り、そのアンドロイドにプレゼンをさせた話も持ち出した。プレゼンは何ら問題なかったが、質疑応答は日本にいる石黒氏自身が遠隔操作したという。なお、この日ステージ上のロボットも、オペレーターによる遠隔操作により会話をしていた。
これらの進化について話した後、石黒氏は「アンドロイドロボットは人間よりも人間らしくなっているか?」と問いかける――答えは「イエス」だ。ロボットに俳優、アイドルなどの職業をやらせれば、間違えず、疲れず、文句を言わず、しかも安価。もっと美しくすることもできる。だがこれは、「パーフェクトなアンドロイドロボットは、(本質的な意味で)人間らしくない」という次の問題に衝突する。
そこで石黒氏が手にしたのが、携帯電話サイズの小型ヒューマノイド「Elfoid」だ。遠隔操作型で握りながら、遠くにいる相手と対話する。「我々(人間)は、人とやりとりするとき相手に対するイマジネーションを使っている」と石黒氏は話し、Elfoidは「ミニマルなデザインによりイマジネーションを最大化できる」と述べる。さらには、会話を通じてイマジネーションを得るため、Elfoidを介すると常にポジティブなイマジネーションが湧くとも言う。また、Elfoidよりも大きい抱き枕のような「Hugvie」は、欧州でも介護で喜ばれることが分かったという。
ElfoidはNTTドコモとのコラボレーションにより3G版を開発、現在石黒氏らはBluetooth版の開発を進めている。子どもや老人などスマートフォンを使いこなせない層に特に適している、と石黒氏は言う。
ロボットを動かすための基盤ソフトウェア「V-Sido」を開発しているV-Sido CEOの吉崎航氏は、「スマートフォンの次にくるものの1つがロボット」と述べ、ロボット機運の高まりとV-Sidoの必要性について話した。
V-Sidoを有名にしたのは水道橋重工の倉田光吾郎氏が作成した4メートル長の巨大ロボット「KURATAS(クラタス)」だ。吉崎氏はまず、巨大ながらスムーズに動くKURATASの動画を見せた。V-Sidoは「このような巨大ロボットから小型ロボットまでさまざまなサイズのロボットを動かすためのソフトウェア」「バイナリレベルで同じソフトウェアを使う」と述べ、「PCのOSの位置づけのソフトウェアを目指す」とした。
ロボット開発の機運が高まっているが、ヒューマノイドロボットの作成はそう簡単ではない。アクチュエータ、センサ、ネットワーク、人工知能(AI)などさまざまな技術に精通している必要がある、と吉崎氏。V-SidoではCG上でロボットをなぞるだけで実際に市販のロボットを動かしたり、人間の動きをそのままロボットにコピーしたりすることが可能だ。さらには、バランスのとれた歩行など、そのままコピーしてもうまくいかないロボットと人間の差異についても研究や改良を重ねているという。
吉崎氏はステージ上で、V-Sidoを搭載した全長60cm程度のロボットを登場させ、振動を与えても人間のように動きを安定させる様をデモしてみせた。ロボットはジャイロや加速度センサなどのセンサは一切搭載していないとのことだ。このほかにも、ロボットではなかなか難しいとされる膝を完全に伸ばした歩行を実現したり、中身が入った缶ジュースを投げても転倒しないなどの実験の動画も披露した。ロボットをサーバとすることでスマートフォンやKinectを利用した操作も可能だ。「ロボット側に設置したカメラの画像を手元のスマートフォンでみたり、スマートフォンで指による操作をしたりできる」と言う。
このようにV-Sidoの特徴を述べた後、吉崎氏は「プラットフォームとして利用でき、PCやAndroidと同じようにハードウェアを意識せずにソフトウェアを開発できる」と狙うポジションを説明する。
そして技術のトレンドになぞらえて、「モノにCPUを搭載させてインターネットにつながるようにしたものが増えている。ロボットはこの次、あるいはこれらの1つとして考えることができる」と自身の見解を示す。「“暑い”といえば音声認識によりエアコンのスイッチが入る、“コーヒーが飲みたい”といえばロボットが持ってくるような世界が近づいている。全てのものがインターネットにつながった際、移動が必要なものや作業が必要なものは今後ロボットに置き換わっていくのではないか」と予想した。
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