ラスベガスでAmazon Web Service(AWS)のカンファレンス「AWS Re:Invent」が開催された。基調講演では、クラウド上で仮想デスクトップ環境を提供するAmazon Workspaces、サーバサイドでの演算を用いてあらゆるクライアントでグラフィックスなどを多用したアプリを実行できるAmazon AppStream、リアルタイムのビッグデータ解析環境を実現するAmazon Kinesisなどを発表した。
AWSはスタートアップ企業が「使わない理由が見当たらない」というほどに普及し、またスタートアップのカルチャーそのものを劇的に変化させたサービス。AWSに支えられて作られたサービスによって、我々の生活に変化がもたらされた。Amazonは、パフォーマンス、セキュリティ、信頼性、コスト、スケーラビリティの5点にフォーカスしてクラウド環境を進化させている。
そんなAWSを使って急成長しているクラウドストレージサービスを展開する「Bitcasa」をご紹介しよう。Bitcasaは、月額99ドル、年間999ドル※で無制限のオンラインストレージを利用できる。
AWSを使用し、我々コンシューマーに対して最も身近にまた大きく感覚を変化させようとしているのが、クラウドストレージ企業Bitcasaだ。年間99ドルで無制限のオンラインストレージを利用できる。
なぜそんなことができるのかといえば、ユーザーの使用領域の傾向とファイルの重複を省く特許取得の技術によるもので、Bitcasaのビジネスモデルと技術のたまものである。ただベースとなっているのはAmazonが提供するストレージ環境S3の圧倒的に安いクラウドストレージ環境だ。
もちろんユーザーがAmazon S3を直接利用すれば、Bitcasaに限らずDropboxと比較しても安い価格で利用できるが、一般のユーザーにとって使いやすい「サービス」や「アプリ」になっているとはいえない。そこでこれらの企業は生のオンラインストレージに付加価値を付けている。その付加価値に対する考え方や機能、ユーザー体験が差異になっているのだ。
シリコンバレー、マウンテンビューに構えるオフィスで、プロダクトディレクターのLuke Behnke氏に話を聞いた。Bitcasaは、新世代のストレージの考え方だという。「モバイルを前提としたコンピューティング環境に最適だ」と語る。
「これまで手元のマシンのストレージは増え続けてきました。しかし最新のAppleのノートでは、フラッシュディスクの採用でスピードこそ劇的に速くなりましたが、容量はHDDの頃の半分から4分の1サイズが標準的となりました。モバイルデバイスのストレージも、1Tバイトを搭載することは決してリーズナブルではないでしょう。つまり、ローカルにデータを持たないスタイルのストレージが求められるのです」(Behnke氏)
Bitcasaは他のクラウド系、ストレージ系のサービスと違い、手元のコンピュータのストレージにコピーを持たない。ちょうどネットワークディスクと同じだが、コンピュータ上では実際に外付けHDDがつながっている感覚で利用できる。100Gバイトのビデオアーカイブを128Gバイトのフラッシュストレージしか搭載していないMacBook Airで扱うことも可能になるのだ。
ただ、Bitcasaの魅力はそれだけではないという。
「多くの場合、ストレージを直接接続できないモバイルデバイスから、外付けHDDの中身を見ることはできませんでしたし、PCの場合であっても必ずしも、HDDがある職場や書斎だけで利用するわけではなくなりました。PCであろうがタブレットであろうが、スマートフォンであろうが、自分の持っているデータを閲覧し、また利用可能にしておくことが求められます」(Behnke氏)
Bitcasaのパソコン向けアプリは前述の通り、仮想的な外付けHDDのように利用できるが、ウェブサイトやモバイルデバイス向けアプリからも、蓄積した膨大な情報を利用できる。特に写真やビデオなど、閲覧することに意味があるコンテンツをどこからでも簡単に見られる仕組みは、データの蓄積ではなく閲覧が目的であることに気づかせてくれる。
Bitcasaは、PC側でデータを暗号化してサーバに蓄積するため、Bitcasaの社員であってもその中身を閲覧することはできない。また、AWSの北米、欧州、アジアのリージョンを利用しており、自動的に3箇所でミラーリングをしているそうだ。特にアジアは東京が拠点となるため、日本のユーザーのアクセスは非常に快適なはずだ。
加えて、リンクでファイルを送ったり、受け取ったファイルを自分のBitcasaに保存したりできるが、容量が無制限ということで、ダウンロードや保存をためらうこともない。これまでのオンラインストレージやファイル転送サービスとは違う快適さを体験できるようになる。暗号化と3箇所でのバックアップは、個人のデータからすれば十分で、HDDを自分で管理してデータを保存するよりも安全であると言えるだろう。
11月11日に同社は700万ドルを予定していたシリーズAを急遽1100万ドルに増額して投資を受けた。開発の加速と国際展開の充実がその主な目的だ。現在米国で話題となっているNSAによる通信傍受の問題に関連して、暗号化して送信する方式に対しても支持が集まっていると見られる。
Bitcasaは、付加価値を追加することで独自の新サービスを作り上げているが、今後のAWSの進化にも目を向けていくべきだ。Bitcasaに限らず、AWSを採用している企業は、Amazonがどんな機能やサービスを追加してくるかによって、実装がより効率的になったり、新しいアイデアが生まれたりするのだから。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス