スマートフォンの普及や通信技術の発展によって、ITは音楽や映像などのデジタルコンテンツを楽しむためのものから、より多くの消費者の生活を便利に、そして豊かにするツールとして進化を遂げつつある。近年は教育や食品など、どちらかと言えばITとは遠い存在と考えられていた業界や領域での取り組みも徐々に広がってきている。この連載では企業のウェブでの取り組みを通じて、それぞれの領域におけるテクノロジーの持つ可能性について考える。
第1回のテーマは“ファッション”。モバイル端末との相性の良さから次々と新たな事業者が参入を表明している、今最も注目を集める領域の1つだ。最近では、NTTドコモが10月30日よりファッション通販サイト「d fashion」の提供を開始したばかり。また、ソーシャルECやタイムセール型、定期購入型など、ビジネス形態が多様化しているのも特徴だろう。
ウェブ事業者による参入が相次ぐファッション領域だが、実は既存のアパレル企業の中にも、すでにウェブを積極的に取り入れている企業がある。国内最大規模のカジュアルファッションブランドを展開するユニクロだ。8月末時点で約1300店舗(国内853、海外446)を有する同社は、2012年1月からスマートフォン向けアプリ「UNIQLO APP」を提供しており、オンラインストアへのアクセスや店舗検索、クーポンといったサービスを、スマートフォンから手軽に利用できるようにしている。
アプリではこれらの基本機能に加えて、同社ならではの独自コンテンツも充実している。たとえば、掲載商品にタップするとオンラインストアの該当商品に直接アクセスできる電子チラシ機能を備えている。自宅から買うこともできるが、紙のチラシの代わりにスマートフォンの画面を見ながら実店舗で買い物をする顧客も増えてきているという。また店舗内の商品タグに印刷されているバーコードをスキャンすると、その商品の詳しい情報や、顧客のレビューなどが見られる機能も搭載しており、オンラインのみに完結しない、いわゆるO2O(Online to Offline)の側面も持ち合わせたアプリとなっている。
さらに、ユーザー同士で商品や店舗などについて語り合えるコミュニティ「みんなで作る、みんなのユニクロ」にもアクセス可能で、同社ではこの場で寄せられた消費者の声を日々の商品開発やサービスの改善に生かしているという。ユニクロが開設する各ソーシャルアカウントへの誘導も設けられている。媒体ごとに発信する情報を変えており、11月15日時点のそれぞれのフォロワー数は、LINEが166万、Facebookが94万人、Google+が69万人、Twitterが21万人を超える。
同社が実施した調査によると、UNIQLO APPを週に1回以上立ち上げるユーザーは4割にのぼっており、このうちの7割がチラシを見る頻度が高まったと答えたという。ユニクロのデジタルチーム担当者は「新聞を読まない層に対してもチラシを届けられるようになった。デジタルとリアルの融合をすることで、より顧客のニーズに沿った、買い物をしやすい環境を作れる」と手応えを語る。
ところで、ユニクロのデジタルコンテンツと聞くと、2007年に公開された時計機能を備えたブログパーツ「UNIQLOCK」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。ユニクロの衣服を着用した女性ダンサーが時報に合わせて踊る映像が見られるというもので、その斬新な表現が高く評価され、カンヌ国際広告祭のチタニウム部門とサイバー部門でグランプリを獲得し話題となった。
その後も、天気や曜日によってアラームミュージックが自動生成される目覚ましアプリ「UNIQLO WAKE UP」や、日本の四季や街の風景を楽しめるカレンダー「UNIQLO CALENDAR」、2秒間のループ動画を撮影してシェアできるカメラアプリ「UT CAMERA」、女性向けのヘアアレンジを提案するサービス「UNIQLO HairDo」、米国の人気シェフによるレシピアプリ「UNIQLO RECIPE」など、次々とユニークかつクリエイティブなデジタルコンテンツを公開してきた。
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