「私のこと、見てる?」--Google Glassとプライバシーの未来についての考察 - (page 2)

Google Glass時代の社会モラル

 ここでひとつ白状しなくてはいけない。私が勤務しているデザイン&イノベーションのコンサルタント会社Frogは、これまでに世界で何千という会話を録音してきた。それだけではなく、無数のビデオ映像を録画し、街で人をつけ回し、自宅の中にまで潜入し、食器棚や引き出しの中を覗き、個人的な内容の質問を繰り返してきた。

 もちろん、そのすべては相手の許可を得て行ったことであり、集められたデータは100パーセント調査用に使用された。私たちはその過程で、誰からどんなデータを集めればいいのか、その手段や目的や使用方法について何度も議論を交わし合い、そこから多くのことを学んだ。ここでは、その一部をご紹介しよう。

 データを集めるだけなら、どんなバカでもできる。データ収集の本当の課題は、モラル的にも法律的にもしっかりと義務を果たしたうえで、何かしら価値のあるデータをいかに集めるか、という点にかかっている。

1.責任から生まれる信頼感

 人は、知らない相手に自然と不信感を抱くものだ。そんなときには、その人にあえて作業を自由にやらせたり、こちらが用意した器具を好きに扱わせることで、第一印象の不信感を和らげ、早いうちに信頼関係を築くことができる。たとえば、道で出会ったばかりの人に50万円相当のカメラを渡し、あとは勝手に友人たちとの会話を撮影してくれと頼んでみよう。自分が信頼されていることがわかれば、その人もこちらを信用してくれるはずだ。

2.オン/オフの状態を明確にする。

多くの人は(少なくとも最初のうちは)記録されることを不安に感じる。われわれFrogのデザイン調査チームでは、オン/オフの切り替えを強調することで、そういった不安感をなるべく和らげるようにしている。たとえば、カメラやそのほかの記録デバイスを使用していないときには、そのことがはっきりわかる持ち方をしてあげれば、向こうも安心してリラックスできる。カメラは拳銃のようなものだ--いかなる状況でも、その影響力を過小評価してはいけない。本当に使う準備ができた場合のみ取り出し、相手に向けるときには、よりいっそう慎重になろう。

3.連絡先の交換

 ソーシャルメディアや電子メールを活用すれば、調査をする側とされる側の間で継続的な信頼関係を築くことができる。こちらが質問をしたのと同じように、相手にも質問する権利がある。いざというときのための連絡先を知っているだけでも、人は安心するものだ。

4.最終確認

私たちのチームでは、調査に参加してくれた人全員に対し、担当者が収集した個人データを確認/削除/自己管理できる機会を与えている。この作業は、調査セッションの最終段階、すべての謝礼が支払われた後に行われ(こうすることで、参加者からデータの消去を求められる事態を避けられる)、さらに、データの使用に関する同意がなされる前に行われる(これによって、これからサインすることの意味をよりきちんと理解してもらえる)。

Google Glassが持つ反社会的な側面は、いくつかの単純なステップによって簡単に引き下げることができる。ボディランゲージの新しいルールを決めれば、グラスの使用状況を相手に伝えるのに役立つだろう。たとえば、使用していないことを示す際には、グラスを頭の上を押し上げる、など)。 次に挙げる2つの追加ルールは、Google Glass装着者のそばにいる人々の不安を和らげ、社会的な批判を軽減することにもなるだろう。

5.周りにいる人々の権利

 Google Glass装着者のそばにいるすべての人に対し、記録中の映像にアクセスし、その内容を彼らの選択したデバイスで確認することを許可する。グラスは誰がどこから見てもすぐ判別できる形状にし、装着者の追跡も容易に行なえることが望ましい。この単純な方法で、テクノロジーへの不信感を拭い去り、いかなるスペースでも安心して過ごすことが可能となる。現実にはそこまでする人はほとんどいないだろうが、いざというときにアクセス可能であるという事実だけでも、人々は安心して行動できるはずだ。

6.外部からのコントロール

 Google Glass装着者のそばにいる人々は、装着者の記録機能をコントロール可能とし、記録されたデータがどんなふうに使われるかを確認する許可も与える。グラスがもたらす利益を、装着者だけでなく、他の人々も共有できることは、この商品の社会的な価値を高めていくうえで欠かせない要素だ。

未来を生きるために

 私はこのエッセイを、ある引用のもじりで始めた。以下はその原文である。「アマチュアカメラマンをこらしめる方法はただひとつ。盗撮されていると思った瞬間に、カメラに向けてブロックを投げつけてやることだ」--Google Glassについてもそっくりそのまま当てはまりそうな文章だが、実はこれは、1885年の雑誌「アマチュア写真家」の記事から抜粋したものだ。1885年というと、感光性のドライプレートを使ったカメラが開発され、街中でこっそり写真を撮ることが可能になってから、わずか7年後のことである。

 それから25年後に刊行された同じ雑誌には、次のような文章が掲載されている。当時のカメラはさらにコンパクト化され、周囲の人から、より気づかれにくい存在となっていた。「私たちのモラルの高潔さは、器械のサイズが小さくなるにつれて、だんだん少なくなってきているようだ」。そして現在、Google Glassに革新的な機能性をもたらしたテクノロジーは、私たちの視界から完全に消えてしまおうとしている--今こそ、議論や熟考を始めるべきときではないだろうか。

 私は今この瞬間、Google Glassを世に送り出すためにグーグル社が注ぎ込んでいる多大な努力に深く感謝している。その情熱を、世界中のみんなで分かち合おう。そして、この怒りもまた、分かち合おう。

◇筆者紹介
Jan Chipchase (ヤン・チップチェイス)
Jan Chipchase (ヤン・チップチェイス):フロッグ・デザイン社 エクゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
ヘルスケア、携帯、ファイナンス、自動車や消費材などフォーチュン500社をクライアントに持つフロッグ・デザインにて、年間150以上のデザイン・リサーチを監督。最新のトレンドスポットから紛争地域まで、一年の半分は、世界のあちこちでフィールドリサーチを行う。イノベーションや、デザイン分野、世界的なテクノロジー動向についての知見をもつ。新著は「Hidden in Plain Sight」。
本稿はChipchase氏が「All Things D」に寄稿したものの抜粋訳となる。抜粋訳は同氏のイベントを開催するロフトワークのサイトでも掲載中だ。

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