2010年11月には、ニューヨーク在住の文芸エージェント、Richard Curtis氏が委託販売の廃止を訴える記事を書いている。同じような指摘は、これまでに挙げた他の参考文献にも、またここで挙げていない関連文献でも、枚挙にいとまがない。いちいち紹介するとそれだけで一冊の本になってしまうので、引用はここまでにする。末尾に参考文献リストを掲げるので、疑う読者はご自分の目で確認されることをおすすめしたい。
佐々木氏はまた、「雑誌と書籍が同じ流通チャンネルに載っている」ことを問題視するが、米国には日本で言う「取次」が二種類存在しており、「Distrubutorは書籍だけを扱うが、Wholesalerは雑誌と書籍、その他の商品を配送する」と複数の文献に書かれている。
通念に反して、米国やイギリスの書籍市場は、一種の「委託制度」を採用していることは間違いなさそうだ。だから「紙の本が買切だから、電子書籍も同じ制度を導入した」というのは間違いだ。そもそも、紙の本の取引と電子書籍のそれとは大きな違いがある。これについては後に述べたい。
なお、米司法省対アップルと出版社5社の裁判で、全米書店協会(ABA)と世界最大の書店チェーン、バーンズアンドノーブルは「紙の書籍の契約形態は電子書籍販売の『ホールセール』と同一ではない」という趣旨のことを述べている。
ちなみに、返本率について述べておくと、年によって、書籍の種類によって違うが、日本ではすべての本の平均が約4割、米国ではハードカバーの返本率は約4割とされており、この点でも大きな違いはなさそうだ(米国の返品率は"Merchants of Culture" by John B. Thompson)。
「再販制度」や「定価」についてはどうだろうか?
日本の出版業界の批判者の多くが、再販制度や定価に批判的であるが、前出のOECDのレポートは、次のような表を紹介している。
この表は、OECD加盟国(50カ国)の全部をカバーしたものではない。しかし、対象の26カ国のうち実に18カ国が、なんらかの形で定価(Fixed Book Price)制度を採用している。OECDのレポートは、次のように説明している。
定価制度は、世界中の多数の先進国で、書籍産業が発達するのと並行して(普及した)。マスマーケットに向けた、より人気のある「ブロックバスター」を扱う書店や出版社が、高品質の、より文化的に価値のある本を脅かすのを防ぐため、書店団体と出版社団体の間で結ばれた業界協定によって、最低小売価格または「底値」が固定されたのが始まりである(46ページ)。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
Copilot + PCならではのAI機能にくわえ
HP独自のAI機能がPCに変革をもたらす
ドコモビジネス×海外発スタートアップ
共創で生まれた“使える”人流解析とは
働くあなたの心身コンディションを見守る
最新スマートウオッチが整える日常へ