ディー・エヌ・エー(DeNA)が10月23日、無料メッセージサービス「comm」の提供を開始した。iOSおよびAndroidに対応しており、それぞれApp StoreとGoogle Playでダウンロードできる。日本や欧米、アジアをはじめ世界204の国と地域で提供するとしている。
この新サービスについて、DeNAが定める規約を問題視する声が一部で上がっている。これについて、内田・鮫島法律事務所の伊藤雅浩弁護士に以下のコメントをもらった。
【Updated】10月24日11時現在において規約がすでに改正され、問題となる6条3項については「当社は、すべてのcomm会員記述情報を本サービスの提供を目的とする範囲において無償で複製その他の方法により利用できるものとします。ただし、comm会員間でメール・チャットによりやりとりされる情報を、令状等による場合を除き、当社、第三者が閲覧することはありません」のように修正されています。
commの規約に関する見解を短く表現すると次のようになります。
「commの規約のうち、メール・チャット等のやり取りを事業者が自由に利用できるとする部分は、形式的には通信の秘密の侵害に当たり得るが、利用規約に同意をしているということをどう評価するかが問題だ。第三者にまですべてのやり取りを利用させる可能性があるという利用者の重大な不利益については丁寧な説明をし、ユーザーが納得した上での同意でなければ、有効な同意ではないと評価される可能性もある」
以下、少し踏み込んでみます。
DeNAが定める規約のうち6条3項の「すべてのcomm会員記述情報を無償で複製その他あらゆる方法により利用し、また、第三者に利用させることができるものとします」の部分と、1項の「comm会員記述情報とは、当社の運営するサイト内にcomm会員が記述したすべての情報及びcomm会員間でメール・チャット等によりやりとりされるすべての情報をいいます」という記載から、事業者が自由にユーザーの通信内容を知得できることになり、電気通信事業法4条に定める「通信の秘密」の保護に違反しないかという点が問題になります。
通信の秘密は憲法21条2項で保護されているものですが、これを具体的に法律上定めたのが、電気通信事業法4条です。電気通信事業者がこれに違反すると3年以下の懲役または200万円以下の罰金の刑罰が科されます。
ここでいう「秘密」というのは「一般に知られていない事実で、他人に知られないことについて利益を有する事実」だとされます。一例としては、電話や電子メールなどの非公開・特定者間の通信は、秘密性が認められるのが原則です。ですからcommを使ったメール、チャットによってやり取りされるものは通信の秘密の保護対象といえます。
となると、直ちに違法といえるのか、というとそう簡単でもありません。
まず、犯罪捜査目的など、業務上の必要から、それを知ろうとする行為などは許されているとされるのですが、事業者にその必要性があるかというと、今のところそれは明らかになっていません。
また、一般に、通信当事者(つまり利用者)の承諾があれば違法ではないと考えられています。問題は、個別の通信ではなく、アプリを利用する前に規約に包括的に同意することが「承諾」といえるかどうかです。
ここでの承諾は、通信当事者の双方から必要だとされていますが、commユーザー同士の通信であれば、一応どちらからも「承諾」を得ています。よって、これを違法でないとする根拠は、双方から事前に同意を得ているというところなのでしょう。
一方で、これに対しては「憲法上保障された通信の秘密を放棄するという重大な不利益を、こんな簡単でかつ包括的な同意だけでは放棄する意思があったとは認められない。ユーザーはここまで理解した上で同意しているとは言えない。」という反論があり得るでしょう。
この点についてはアプリインストール時の「同意」にどこまでの効果を認めるかという具体的な裁判例はありませんし、法律の解釈としても「双方の承諾があればOK」としているところまでしか固まっていません。通信の秘密の保護と、通信内容が第三者にまで利用されるという不利益の大きさから、仮に事前の承諾を得るとしても、分かりやすく説明をし、ユーザーの納得を得たうえで同意を取るという適正なプロセスが求められているといえるでしょう。
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