東芝は5月22日、2014年度に売上高7兆8000億円、営業利益4500億円を目指す中期経営計画を発表した。
そのなかで、国内におけるテレビ生産を終了したことや、「トータル・エネルギーイノベーション」および「トータル・ストレージイノベーション」という新たな事業コンセプトを打ち出すとともに、ICTを活用したスマートコミュニティ事業を推進する姿勢を示した。
昨年までの経営方針説明会はハードウェアを中心としていたが、今回の会見ではテレビやPCなどの具体的な出荷台数計画などにほとんど触れず、サービスやソフトウェアといった領域の説明に時間を割いた。将来の事業の方向性に対する変化を浮き彫りにした内容だったといえよう。
東芝 取締役 代表執行役社長の佐々木則夫氏は、方針説明の最中に「ソリューション」という言葉を何度も使う一方、テレビ事業については構造改革に関する説明に終始、PC事業に関しては今年の説明ではひとことも触れなかった。
そのなかでも注目されるのは、クラウドへの取り組みを加速させる姿勢をみせた点だ。
佐々木氏は、「情報のビッグデータ化やセキュリティの確保、クラウドの活用が注目を集めている。とくにクラウドを活用したアプリケーション分野では、医療分野向けのヘルスケア・ソリューション、IBMからの買収によって世界ナンバーワンシェアを持つPOSシステムとの連携によるリテール・ソリューション、さらにコンテンツを提供するBtoC型のデジタルプロダクツ・ソリューションが重点領域になる」などとし、「こうした取り組みによってトータル・ストレージイノベーションを推進する」と語った。
一方で、テレビ事業に関しては、長年に渡ってテレビ生産の拠点となっていた深谷事業所でのテレビ生産を停止。海外のODMを活用した生産に取り組む姿勢を示した。
「歴史ある工場での生産停止については、忸怩たる思いはある。しかし、それがビジネスそのものの重石になってならない」とし、国内生産を停止した思いを語る。
続けて「2011年度は赤字となったが、2012年度はテレビ事業はブレイクイーブンだが、社内目標としては黒字化を掲げている」と語る。
だがテレビ事業においても、ハードウェア事業だけでなく、クラウドを活用した新たな提案について言及する。
それがデジタルプロダクツ・ソリューションということになる。
「従来の収益源は、単体としてのハードウェアや機器間連携によるもの。ハードウェア依存から脱却し、サービス・ソリューションを収益の柱にする」と佐々木社長は意気込む。
4K2Kテレビやフルセグ機能を搭載したタブレットなどの商品力を強化する一方、REGZA AppsなどのアプリケーションやToshiba Places、電子書籍の販売などのBtoCサービスの強化を推進。さらに、コンパス・グラメディア社や凸版グループのBookLive社などとのパートナーシップも加速する考えだ。
とはいえ、サービスやソフトウェア事業の業績への貢献は、しばらくの間は限定的だといえる。
東芝が打ち出した今回の中期経営計画で目指す売上高目標は、2011年度売上高から2014年度までの年平均成長率は9%増。世界のGDP成長率が年率5%増が見込まれていることに比べても、それを大きく上回るものになる。
だが、この成長を支えるのは、やはりハードウェアであることには違いがない。
先に触れたクラウド事業の拡大についても、同社が得意とするHDD、SSD、NAND型メモリといった各種ストレージデバイスを活用。これを基盤として展開していくことになり、結果としてハードウェアの強みが前面に打ち出されることになる。
デジタルプロダクツ・ソリューションについても、テレビ向けのBtoCサービスのほか、ビジネスタブレットやグローバルカスタマー向けのPCを活用したBtoBソリューション、HEMSや家電連携によるホームソリューションを加えても、2015年度の売上高は2000億円。2015年度には8兆円規模の全社売上高が想定されることに比べると、3年後でもまだ規模は小さい。
さらに東芝ではスマートコミュニティ事業にも取り組んでいくが、ここでもソリューションが重視されることになる。
重電メーカーである東芝がサービスとソフトウェア事業を軸とした経営体質に転換するには長年の変革が必要だろう。
しかし、東芝は体質の転換に挑んでいく姿勢を崩さない。この変革への取り組み成果がどんなところから出てくるのか。ジワリとにじみ出すような成果が今年度中に出てくれば、今後の収益体質に大きな変化が出てくることになりそうだ。
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