一般用医薬品のネット販売を規制する厚生労働省(厚労省)省令の無効確認と取り消しを求めた、ケンコーコムとウェルネットによる行政訴訟の控訴審の判決が、4月26日にいよいよ言い渡される。これに先立ち、改めてこの訴訟の経緯を振り返ってみたい。
2009年6月に施行された改正薬事法では、一般用医薬品を副作用のリスクに応じて第1類~第3類に分類している。そして第1類については販売時に情報提供を義務づけ、第2類についても情報提供の努力義務が求められると定めた。そしてこれと同時に施行された厚労省省令では、安全面で対面販売に劣るとして、第1類、第2類のネット販売を含む通信販売が規制されることとなった。
省令では、離島在住者や同じ医薬品の継続利用者に限っては、第2類の販売を2年認める経過措置をとった。これについては2年の延長が認められたが、それでも2013年5月末に期限を迎える状況だ。
この省令に対してケンコーコムらが起こした行政訴訟だが、東京地方裁判所で開かれた一審では、インターネット販売の規制は副作用による薬害を防ぐためのものであり、対面販売では購入者の身体上の特徴や顔色を直接確認できる一方、インターネット販売ではそれが確認できず購入者の虚偽申告の真偽確認が困難であるなどとして、2010年3月にその訴えを棄却、却下した。
この判決を受けて原告のケンコーコムらは控訴。第2回の控訴審では、裁判長から一審で問われてきた“ネット販売 対 対面販売”という観点での安全性や正当性の是非を判断するのではなく、省令の施行前後で薬害や医薬品販売時の情報伝達状況がどう変わったかを比較すべきと促している。口頭弁論は2011年4月まで計4回行われ、当初2011年夏の見通しだった判決は、実に最後の口頭弁論から1年の歳月を経た2012年4月に言い渡されることとなった。
またこの裁判と並行して、内閣府行政刷新会議が2011年3月、規制仕分けで「一般用医薬品のインターネット等販売規制」を議題に扱っている。ここでは、仕分けの評価者から「安全性を確保する具体的な要件の設定を前提に、第三類医薬品以外についても薬局や薬店が郵便等で販売できる可能性を検討する」という方向性が打ち出された。これと同時に、検討の結論が得られるまで経過措置を延長し、不断の見直しを行うという結論が出された。前述のとおり経過措置は延長されているが、それ以上の大きな動きが起こっている状況ではない。
そしてこの経過措置も前述の通りあと1年限りのものであり、このままでは離島在住者や継続購入者の混乱が起きるのは必至だ。さらに東日本大震災以降、東北地方でも、店頭での一般用医薬品購入が困難な地域は少なくないという状況もある。
国側が一貫して主張するのは、「対面販売の安全性」だ。一審の判決と同じく、購入者の顔を見ればどういった症状か分かるため、ネットより安全であるという。だが原告は、ネット販売でも医薬品の添付文書と同等の説明がなされるほか、ネット販売に起因する副作用は発生していないため、その安全性が否定されるものではないと主張する。たとえば会社にあるような置き薬(配置販売)についても、使用する全社員が立ち会って説明を受けている訳ではない状態だ。それでもネットより安全なのか? という声も聞こえてくる。
また、「本来論じるべきは、従来のネット販売では情報提供の不十分さにより副作用事故が多発していたのか、ネットでは十分に情報提供できないのか、全面禁止する必要性があるのかという点」という法学者の声もある。
海外を見ると、欧米では一般用医薬品購入のインターネット販売が認められている国が多い。かつてドイツでは規制されていたが、違憲判決が出て法改正されているほか、現在禁止されているフランスなどでも、規制緩和の方向で動いているという。日本の控訴審では果たしてどのような判決がなされるのであろうか。
◇一般用医薬品のネット販売をめぐるこれまでの流れ
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