マーケターに見えていない若者たち

古市憲寿(東京大学大学院総合文化研究科博士課程/慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問))2012年02月20日 11時37分

最初から既になんでもある時代の「幸せ感」

 若者論と言われる分野では「若者は非正規雇用も多くて、就職も厳しくて…」と若者が「かわいそう」な存在として語られることが多かった。しかしニュートラルに2012年に生きる若者を切り取ってみれば、そのような「若者かわいそう論」が疑問に思えてくる。

 「ALWAYS三丁目の夕日」がわかりやすい例だが、昭和30年代はカラーテレビを買うというだけで、家族中もしくは地域の人も含めて大喜びした時代だ。そもそも持っているモノが少ないからモノが増えるだけで単純に嬉しいし、カラーテレビやエアコンといったモノが増えることで幸せを実感できた。それは自分の豊かさを確認すると同時に、どんどん豊かになっていく日本社会を確認する作業でもあった。

 それに比べて現代は、はじめから何でも揃っている時代だ。特に生まれた時から物質的な豊かさの中にある若者たちは、大きな努力をしてモノを手に入れることになかなか魅力を感じることができない。それほど努力せずに、満足できる幸せのタネは身近にたくさん転がっているからだ。

 最近の日本は「閉塞感」とか「不況」とか、ネガティヴなキーワードと共に語られることが多い。しかし、日本の歴史上、現代ほど豊かな時代はないと思う。

 例えばiPhoneにしても、ASEANの国に住む人からしてみればロレックスくらいの感覚。相当な無理をしないと買えない。だが日本ではお金持ちから普通の学生まで買える。確かに年配の人からすれば「こじんまりまとまって」と見えるかもしれない。しかし、あまりにも手軽に、ほとんどの幸せが手に入ってしまうのだ。

つながり消費は村の寄り合い費

 「つながり」や「絆」、「仲間」が消費のキーワードとしてあげられることがある。若者に限って考えてみても、それらのキーワードはある意味正しい。若い人にとって消費は、「村の寄り合い費」のようになってきていると思う。

 バブル時代の頃、ブランドものを買って自らをランクアップさせるとか、消費は「自己実現のツール」だった。しかし今は仲間(村人)との関係を保つための消費が多い。コミュニケーション消費と言い換えてもいい。たとえば通信料などの支出の増加がその象徴だろう。

「若者は消費しない」ではなく「消費したいものがない」だけ

 実は若者の可処分所得自体はバブル期とそれほど変わってはいない。当時は将来が右肩上がりだと思っていたからお金を使えたけれど、今はそうは思えないからお金は使えない。しかし「若者の○○離れ」というのはマーケターの言い訳だと思う。

 「若者は消費しない」ではなく「消費したいものがない」だけだ。より正しくいえば、若者たちにとっての、友達と話すとか、そういった「お金を使うよりも楽しいこと」ことをマネタイズ出来ていないのが問題だ。

 「若者のクルマ離れ」とか「旅行離れ」とか象徴的ないくつかの事例だけを見て「若者は消費をしない」と判断するのは早計ではないか。海外旅行やクルマにしても、昔のパッケージのまま売り続けているから売れないだけで、やり方はいくらでもあるはず。

 海外旅行もショッピングが付いただけのツアーを売るんじゃなくて、ボランティアやインターン形式のような海外ツアーは好調だ。自分探しも出来て、友達も作れて、就活のネタにもなる。そもそも海外に行く若者は、割合で見るとそこまで減少はしていないし、留学者はバブル期の数倍いる。

 モノを売ることが現状追認的になっていると思う。マーケティングの結果、販売計画を立ててモノを売るのは、もちろん一つの方法だ。しかし、同時にそうしてできたモノにつまらなさ、というかある種の限界がある。

 あるドラマのセールスコピーが「恋人より、家族より、仲間じゃないか?」だった。現状認識としては非常に正しい。しかし、せっかくこの時代に数千万人が見る可能性のあるメディアで番組を作るなら、ただの現状追認ではなくてもっと冒険をして欲しい。家電にしても、冷蔵庫とか乾燥機とか日本のメーカーのものは、同じようなデザインばかりで、買いたいと思うものがない。

 マーケティングはどうしても、過去に属するものだ。だから「保険」にはなる。企画も通しやすいだろうし、失敗しても言い訳しやすいだろう。だけど、それだけを重視し続けていては、新しいものは作れない。

この記事はキャビネッツドゥロワーズ「The Social Insight Updater」からの転載です。

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