また、舘野氏は別の結果も披露する。それは、IT戦略決定のタイミングに関する質問に対する回答を基にしている。回答の選択肢には「ビジネス戦略立案の初期段階からITを考慮している」「ビジネス戦略の概要が固まったあとにIT戦略を立案する」「戦略が固まり具体的な施策が決定してからITの対応を決める」「特になにも決めていない」というものだ。
「結果的にアジア市場において、『具体的な施策が決定してからIT対応』と答えている企業の多くが売上げを落としている結果が出ました。アジアは市場全体が好調なので売上げを落とすということは看過できない結果ではないかと思う」と舘野氏は話す。
アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp編集長の大谷イビサ氏は、この結果に対してアジア市場でのインフラレベルについて話す。
「立地が決まってから行ってみたらネットワークなども一から構築していくしかないケースも多いと聞く。電源なども含めてファシリティの問題も考えた上でIT部門は動いていかないといけない。そういう意味でもビジネスが決まった後にインフラを決めていくというのは非常に厳しい」
また、日経BP コンピュータ・ネットワーク局ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサーの星野友彦氏は、ファシリティだけでなく、アプリケーションという観点からも立地が決まってからでは遅すぎると話す。
「ビジネスとITがシンクロしているのは自明の理。工場から出荷する港までの距離、倉庫と工場との連携などアプリケーションを調整しなければならないパラメーターはたくさんある。最適な立地ができなければ最適な生産は無理」
ここまで、ともすれば既存の日本企業のIT部門の存在価値は縮小していくような印象を受けるような話が出てきた。しかし討論会参加者はグローバル化に伴うICTガバナンスの変化をしっかり受け止めることから始めるべきだと話す。
「立地場所が決まってからIT部門に知らせて動き出す、といったことがどんなビジネスロスを生むかをしっかりと説明しなくてはならない。不利な状況に陥って『現地の業者が動いてくれない』といっても経営者は耳を貸してくれないだろうし、そんな報告は聞きたくないはずだ」(大谷氏)
「IT部門は徹底的にデータにこだわるべきだ。経営に役立つデータは何かを見極める、データの使われている場面について把握する、といったことをとことんやっていくことがビジネスの中に入っていくことになる」(浅井氏)
「ITは非常に高度化していてビジネス部門の人間が簡単に使えないものになってきている。新しいビジネスプロセスを構築する場合でもやはりどういう技術の使い方がいいのかはITのプロでなくては難しい。だからこそ、ビジネス部門に適切な助言ができると同時にビジネスを理解して提案ができる人間が求められている」(星野氏)
といった意見が続けて出された。
さらに朝日インタラクティブ CNET Japan編集長の別井貴志は次のようなアドバイスをする。
「IT戦略とビジネス戦略は切り離せない。グローバル化が進むとその傾向はさらに強まるだろう。IT部門が経営、ビジネス部門に対して提案をする場合、問題になるのが、IT用語で話してしまい相手が理解できないというケース。こういうところに注意をしてさまざまな提案をしていけば道は開けてくるのではないか」
確かに、IT部門は大きな岐路に立っているといっていい。長年の課題とされていた「ビジネスに大きく貢献し、影響力を持つ部門」となれるかどうかということだ。グローバル化によってもはや待ったなしの状況になってきたのかもしれない。そして大きな変化を遂げようとしているIT部門にとってのベストパートナーの姿も変わって来るはずだ。浅井氏は次のように話す。
「これからのIT部門にとって頼もしく感じるITパートナーは、投下資本に対して利益を確実に出すための提案をしてくれる企業だ。そのためにはIT部門にとって耳の痛いこともいうし、改善策も出す」
日本のICTパートナーは、確かにかゆいところに手が届くきめ細かなサービスが得意だ。しかしそれだけではグローバル市場で闘う企業は満足しない、ということだろう。今回の討論は、日本企業がいやが応にも変わらざるを得ない厳しい現実を多様な角度から明らかにした。しかし、同時に日本企業にとっての新たな希望も示した時間だったともいえるのではないだろうか。
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