「東北の現実が将来の日本の姿」--出井流の立ち上がり方 - (page 2)

別井貴志 (編集部) Emi KAMINO2011年09月16日 14時23分

東北の現実は将来の日本の姿

--日本の課題は多数あると思いますが、人材、技術、金融資本っていう3つは、3.11があってもなくても、普遍的な課題・テーマになると思います。取り巻いている環境も、経済環境も今、円高とアメリカの景気悪化で大変な状況になっていますが、こうした中でその3つの柱で日本ができていること、もしくはできていないことの課題はどういうことが挙げられますか。

 結局ひとつの国としてやることは、常に自分の国をよくするっていう一方で、もうひとつは他の国にどうやって役立っているかっていうことだよね。そういう目で、日本は割とドメスティックに考えるほうだから国内のことばかり考えていて、ボーダーの中しか見ない。でも、それを個人から見ると、例えばわかりやすいのは、ソニーミュージックの(海外在住の)ミュージシャンだったらロサンゼルスなんて自分の国だと思ってるよね。音楽家なんてとっくに国を超えちゃってるわけ。それがそういう意識もなく動いちゃってるわけね。

 企業はグローバルに考えなきゃ。英語が話せなきゃとか今はそんなレベルだよね。だからいちばん進んでるのは“個人”。その次が“企業”で、いちばん遅れてるのが“行政と政府”なんですよね。だから僕は日本のこの3つのどこの部分を見るかで全然違うと思う。

 個人から日本を見ていくと、今回震災でこれほど日本がすばらしいところだと思われたものはないよね。助け合いだとか、我慢強いとか、政府に対する信頼があるとか。各国であきれたぐらい強いところがある。その次に動きが早かったのは企業。東北で倒産した企業がたくさんあるけど、大企業はほぼもとへ戻っている。戻ってないのがどこかっていうと、中小企業と政府が関連したところ。この3つが一緒にならないと、政治体系ができない。

 今の日本は、東北に限定した話でなくても、同期がずれている。日本はこれまでは意識せずに綿密に同期が取れてたんだけど、社会的に全部同期が外れたのが今回の震災。そこを直していくにはいちばん遅いところが直らないといけない。それが今の問題点。だから東北の現実は将来の日本の姿だって言える。だからそれを政府や行政に対して「あなたたちはいちばん遅いんだよ」ということを世の中が言ってあげないといけない。「日本を俺たちが救うんだ」という気概のある若い世代の人たちが動かないと、何にもなんないんだよ。政府がなんとかやってくれないかとか、政府の年寄なんか頼るなと。

--震災の後、関西や福岡に拠点を移すという動きも出ましたね。「東北の現実が将来の日本の縮図だ」とすると、いま何かしなければと思うのですが、そのためのポイントをもう少し明らかにしていく必要があると思います。

出井伸之氏

 政府とか行政とかっていうのは、もうなんでこんなに人が関わっているんだと思うぐらい複雑なんだよね。だから国が動くには時間がかかるとするなら、少なくとも東京を含む“東日本復興計画”というふうにしなければいけない。つまり焦点を絞る。もう東京から以西は相手にしない。そうすると、当然ながらそういう特区ができるよね。東京の特区を東北を救うための特区と同期させる。東京を起点として東日本を助けるっていう大プロジェクトをやる。僕は東北のほうに復興ファンドを作る、ってやると絶対資金が集まらないと思う。東京の突破力を利用して、そういう意味で地域的な行政を破りたいよね。

バブルがいいんだよ

--単純に復興するだけじゃだめで、要するにもとに戻すという発想ではいけないと思うんですが、アジアにおける日本のポジションを踏まえた上での復興のポイントをどのように考えていらっしゃいますか。

 その答えはシンガポールにあると思うんだよね。シンガポールはマレーシアとインドネシアっていう国に挟まれて、さらに奥には中国がいる。それでどう生き残るか、といちばん最初にやったのは工業団地。今は天津とのプロジェクトでグリーンシティを作っていて、その次が開発センターを作って才能のある人材にコンタクトしてどんどん誘致している。

 それを東北の場合に逆方面から捉えてみると、東北の大企業が移転せずに残ってやってくれるんだったら減税をするとか、東北の大学なんかにオープンなイノベーションセンターみたいなのを置いて、これを大企業に頼んでとにかく東北で知識的なオープンイノベーションをやってもらう。大学なんかにそういうのを作る方針を出せば僕は相当集まると思うんですよ。

 日本で強いのは部品だとか精密機器だとか、ソフトウェアもそうだよね。あとはエンターテイメントだね。日本だとアニメばかりしか言わないけど、F1だってエンターテイメント。だからレースもそうだし、そういうふうに開発を促進するようなものをどんどん東北の現地に仕掛けて、具体的なプロジェクトをいくつもやるんですよ。僕が2年前に書いた本で『日本大転換』というのがあるんだけど、これに書いた具体策のとおりにやってほしいんですよ。それをすべて東北版に当てはめて。

 この本で僕は「非常事態にある時はピンチだけどチャンス」、そして「政府が未来を見据えたビジョンを打ち出して、国民や企業も一丸となってやる」と。この本にも書いてあるように、バブルは人間の“夢”なんだよ。今、日本って夢がなくなっちゃったんだよね。だから「バブルが悪い」んじゃなくて「バブルがいい」んだよ。いい夢を作るっていうパワーが必要なんだよ。だから、「その夢のプロジェクトを作ってやる」というようなことをみんながしないとね。それをやるのは、国民の立ち上がり以外ないですよ。結局それは個人以外にないっていう最初の話に戻るんだけど、今日本が立ち上がるためには、リビア的な“一揆”が起こらないと。みんながそういうアクションをしないと。日本人はおとなしすぎるよ。あと、日本人はもっと女性を活用しなくちゃいけない。

*出井伸之著『日本大転換 あなたから変わるこれからの10年』(幻冬舎文庫)で掲げられたアジアへ日本文化や技術を発信する具体策

  • 自然エネルギー利用による地球環境問題への対応
  • 京都発のエコカーレース
  • 日本のアーティストたちによるシルクロード・ライブ
  • オープンイノベーション型の研究開発プラットフォーム

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]