3月11日の東日本大震災を境にコミュニケーションの手法は大きく変わりつつあります。ウェブにおけるコミュニケーションでも、生活者が共感するようなストーリーづくりがますます必要になってくるでしょう。この場合のストーリーとは、相手の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。
JR九州の「祝!九州新幹線全線開通」キャンペーンには、人の心を動かすストーリーがありました。九州新幹線の全線開通は3月12日。開通前日におこった震災のためすべての式典は中止。流されていたCMのオンエアも中止になってしまいました。
本来ならば、幻のCMとなるところでしたが、YouTubeにアップされたことで事態は大きく変わりました。震災で自粛ムードの中、元気をもらえる映像としてブログ、Twitter、Facebookなどで広まっていったのです。
「祝!九州」というテロップから始まる180秒CMは、開通の半月前の2月20日に実施された「祝!九州縦断ウェーブ」というイベントを、新幹線の中から撮影し編集したものです。
鹿児島中央駅から博多駅まで通常のスピードよりゆっくり走る新幹線から、思い思いの仮装をした人々が沿線や駅で手を振ったりウェーブしたりする姿をひたすら映していきます。イベントは事前にテレビCMやJR九州のサイトなどで告知されました(サイトでの告知の文章もユーモアがあり絶妙です)。
当日は、小雨だったにもかかわらず2万人近くの人々が沿線にあつまり、7色にラッピングされた(九州7県を表している)撮影用新幹線にむかって手を振ったり、ウェーブしたりしたのです。
映像は、途中「祝!○○(駅名)」というテロップが入るだけです。そして、マイア・ヒラサワの曲に乗って、人々の喜ぶ姿がひたすら映し出されます。最後の10数秒までナレーションもありません。
それにも関わらず、何度見ても飽きずに、心が熱くなってしまうCMです。このCMは多くの人からリクエストされ、DVDにもなりました。また6月末のカンヌ国際広告祭でも、アウトドア部門金賞、メディア部門銀賞、フィルム部門銅賞の3つの賞を受賞しました。
ではなぜこのCMが多くの人の心を動かしたのでしょう。
それは、イベントに参加している一般の人たちが、本当に自らの意志で参加し純粋にイベントを楽しんでいることがわかるからです。また従来のCMであれば、走る新幹線が主役になるところなのに、ほとんど映りません。映るのは、集まってきた人、人、人。
そこがポイントです。人は人が喜んでいる姿を見ると、自然にうれしくなるのです。この企画は、ネガティブチェックしようと思えば、いくらでもできます。
「本当に人が集まるの?」
「天気が崩れたらどうするつもり?」
「万が一、事故があったら…」
などなど。
それらを乗り越えて、この企画を実現させたクライアントを含むスタッフ全員は素晴らしい仕事をしました。このキャンペーンは、これからの企業と生活者のコミュニケーションのあるべき姿が表現されています。
あなたの会社のウェブコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか。
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店勤務を経て、コピーライターとして独立。最近は広告制作に留まらず、ストーリーブランディングの第一人者として、様々な企業のコミュニケーション戦略をサポートしている。近著『モテる会社~小さくてもみんなが好きになる』(あさ出版)
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