解説:震災後もIT投資への影響不変--想定外を意識したBCPが求められる

 社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(略称:JUAS)は、2011年5月にユーザー企業のIT投資動向調査を緊急で実施。その内容をこのほど明らかにした。

 JUASでは毎年、年末から年明けにかけて「企業のIT投資動向に関する調査研究」を実施している。今年も「企業IT動向調査2011」として、3月に調査結果を発表していた。

 だが、調査時点が東日本大震災前であったため、その後のIT投資動向に変化があったと判断。今年5月に追加調査を実施して、東日本大震災が企業のIT投資にどんな影響を及ぼしたのか、BCPへの対応はどう変化したのかを明らかにした。

 追加調査では、企業のIT部門および社内IT利用部門を対象に、アンケート調査とインタビュー調査を実施しており、129社からの有効回答を得ている。

震災、電力対策でIT予算が増加した企業も

 これによると、東日本大震災の2011年度IT予算への影響としては、85%の企業が「不変」と回答。IT予算への影響はほとんどないという結果になった。

 だが、大企業においては、東日本大震災以前の予定と比較してIT予算を削減すると回答した比率が高く、従業員1000人以上の企業では12%が、売上高1兆円以上の企業では22%の企業が減少すると回答した。

 IT予算減少の理由としては、「日本経済が沈滞し、本業への影響が懸念されるなか、積極的なIT投資に打って出る雰囲気ではない」「4~6月はIT予算はゼロベースに見直し」「リーマンショック以上の大幅なコスト削減計画を策定中」「大震災による利益構造の悪化が理由でコスト削減、投資抑制の動きが強化された」などがあがっている。

 その一方で、IT予算が増加したとする企業もあり、従業員300~1000人の企業では12%、1000人以上の企業でも8%が増加すると回答した。

 「従来は、音声は総務、データはIT部門だったが、これをIT部門に統合し効率化を図る」といったことで予算が増加した企業のほか、「夏季の電力制限に向けた業務の再検討で、データセンター化計画を前倒しした」「社内に設置していたメールサーバー、ウェブサーバーをホスティングし、バックアップ体制を強化する」「自家発電機の購入」「子会社が被災地にあり、生産設備だけでなくコンピュータ設備も駄目になってしまったため、サーバーとPCの貸し出しが発生。震災直後、PCの購入台数が増加」「輪番停電などによる業務処理の臨時対応へのプログラム改修や体制配置の見直し」などが理由にあがっている。

震災後はBCPを定期的に見直す意向が急増

 一方、自然災害リスクに対するBCP(事業継続計画)の策定状況では、東日本大震災を契機にBCPへの関心が高まり、計画の見直しが相次いでいることがわかった。

 調査によると、「BCPを定期的に見直す」と回答した企業が急増しており、震災当時には15%だった比率が、38%と約2.5倍にまで増大。とくに、震災で直接の被害があったとした企業では、52%が「BCPを定期的に見直す」と回答した。

 一方で「BCPの策定予定なし」とした企業は、20%から5%へと大幅に減少。震災被害が直接あった企業では3%にまで減少している。

 なお、JUASが2010年に発表した調査結果によると、地震や津波などの自然災害に対するBCP策定状況は、33%の企業が策定済み、14%の企業が策定予定としていたが、策定予定なしとした企業も38%を占めていた。

マネジメントレベルの事業継続対策が倍増

 JUASの企業リスクマネジメント研究会では、自然災害リスクに対するBCPの策定レベルを5段階で評価。ここでは最も低いレベルが電子データの正確なコピーを作る「バックアップ」、続いて人為的な災難後の手順を整える「緊急時対応計画(コンテンジェンシープラン)」、そしてデータの処理設備の復旧を計画する「災害復旧対策(DR)」、ビジネスオペレーションの復旧を計画する「BCP(事業継続計画)」、有効な対策を行うためのマネジメントプロセスを構築する「BCM(事業継続管理)」と定義。事業継続は、業務レベルからマネジメントレベルに5段階で進化していくとしている。

 今回の調査では、東日本大震災当時と比較すると、「BCM」「BCP」といったレベルが高い領域での策定が倍増。従来の24%に対して、48%の企業がこの領域に踏み出しているという。内訳は、「BCP」が28%、「BCM」が20%となっている。なかでも、震災で直接被害があった企業では54%が、この領域においてプランを策定している。

 だが、BCPの策定、運用を行い、定期的に見直して更新している企業でも、いくつかの課題があがっている。

 とくに、「自社システムが万全でも、仕入先や物流面での対応をしっかりと行う必要があることを痛感」「派遣、委託先に対する災害時の協力要請が今後の課題」など、取引先や関連企業との連携にまで枠を広げることを指摘する声があがっている。

 また、BCPを策定している企業でも、「訓練に比較して、防災本部運営がやや不十分であり、運営を見直した」「データバックアップをとっていたが、復旧に手間取った。予行演習の必要性を痛感した」「IT部門では実行可能なことは推進しているが、ビジネス部門におけるIT部門にとっての他責案件との連携が不十分」「電力問題は、これまでの考えでは不十分であり、サーバーなどにおいては優先稼働グループの設定が必要」といった声が出ている。

 一方で、今回の大震災後にはBCPの策定を検討する企業が増えたものの、「自社のレベルをかえりみないで、遠いところを目指す声が出てきた」「必要以上に騒ぎ立てて、危険性を煽る声が出てきた」というIT部門の悩みも噴出している。

 BCPの見直しとしては、外部データセンターの活用を「導入」および「検討する」といった企業が75%と4分の3を占めたほか、自家発電設備の設置または増設を「導入」「検討する」とした企業も49%となった。また、クラウドコンピューティングへの転換を「導入」「検討する」企業は59%に、在宅勤務の実施、拡大を「導入」および「検討中」とした企業が41%に達しており、いずれも東日本大震災以降、急増していることがわかった。

 JUASでは、「日本の企業がBCPに取り組み始めたのは、1995年の阪神・淡路大震災が契機となっており、多くの企業は地震に関しては直下型地震のみを想定していた。今後、企業においては、広域災害や長期にわたる電力危機などの想定外のことが起こり得ることを想定したBCPが欠かせなくなりつつある」としている。

 BCPに対する考え方を、これまでの水準とは違うものとして考える必要があろう。

 なお、今回の調査対象となった企業のうち、東日本大震災によって、直接被害、間接被害があった企業は全体の4分の3に達しており、「施設や設備が稼働できなかった」「電力や燃料の調達」「仕入れや材料・部品調達」「販売先への納入ができなかった」などの回答が多かった。

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