EMCジャパンは、7月1日付けで、アイシロン・システムズ(アイシロン)を事業統合する。アイシロンは、2010年12月21日に米EMCが買収、統合を発表していたが、このほど日本における事業統合に踏み出すことになる。
アイシロンは、スケールアウトNASを提供するベンダーで、非構造型データを取り扱うメディア企業、エンターテインメント企業、グラフィックス関連企業、研究所、大学などへの納入で実績を持つ。全世界での納入実績は1600社にのぼるという。日本でもカプコン、USEN、セガ、TBS(東京放送)、大日本印刷、防災科学センター、京都大学iPS細胞研究所、IIJ、ソフトバンクBB、富士フイルムなどへの納入実績がある。
これまでにもEMCは、大規模ストレージシステムとして、SymmetrixやVNX、Atomsという製品を持っている。それにも関わらず、新たにアイシロンを加えた理由はどこにあるのだろうか。
そこには、今後増大する「非構造化データ」への対応強化がある。Symmetrixは、構造化データに威力を発揮するストレージであり、VNXも構造化データやプロックデータで威力を発揮しながら、中規模までの非構造化データまで対応できる製品群である。そしてAtomsは、非構造化データに対応するものの、パブリッククラウドにおけるマルチテナント機能が必要な場合などに強い製品であり、どちらかというとサービスプロバイダーなどが主要ターゲットとなる。
これに対して、アイシロンは、Atomsと一部競合する部分もあるが、非構造化データあるいはファイルデータを活用するパブリッククラウドやプライベートクラウドでの活用に適した製品だ。企業ユーザーも重要なターゲットとなり、その点で同社のラインアップを補完することになる。そして、スケールアウト型NASで出遅れていたEMCのストレージ戦略をブーストするものになる。
EMCは、昨年来、「ビッグデータ」という言葉を頻繁に使っている。
2009年には0.8ゼタバイト(ゼタとは10の21乗=100万ペタ)の情報量が全世界にあったといわれるが、これが年率40%以上という高い成長率を維持しながら増加を続けて、2020年には35.2ゼタバイトの規模に拡大するという試算が出ている。16GバイトのiPadに置き換えると2兆2000億台の端末が目一杯となるデータ量に匹敵する。驚くほど多くのデータが世界中に蓄積され、利用されるというわけだ。
そしてこの成長を支えるのは、音楽や映像やPDFデータのほか、各種グラフィックデータ、コンピュータモデリングデータ、医療用画像データといった非構造化データであり、これに対応するファイルベースストレージ市場は年率60.3%で増加するとみられている。
クラウドコンピューティングに代表されるように中央集権型のストレージに蓄積されるデータだけに限らず、携帯電話やスマートフォンといった個人が所有するモバイル端末にも写真データなどの非構造化データが大量に蓄積されることになる。
だが、EMCジャパン社長の山野修氏は、「ビッグデータ時代に大切なのは、単にデータが増加するということだけではない。これらの膨大なデータ、なかでも非構造化データを、従来のような仕組みで保存したり、保護したり、分析したりといったことができなくなる時代が訪れるということこそが課題。これまでのコンピューティング手法では通用しない時代がやってくる。そこに向けて、EMCはどんな提案ができるかが、当社の今後の事業成長のカギになる」と語る。
つまり、アイシロンは、ビッグデータ時代の本質ともいえる、大量のデータを処理するための新たなコンピューティング手法のひとつの提案と位置づけているのだ。シングルファイルシステムで運用できる特性を生かしながら、データの急激な増加に伴う拡張性とパフォーマンスの維持を実現するための提案が、アイシロンによるスケールアウトNASということになる。
日本でも、すでに1月から、EMCジャパンのハイタッチ型営業部門が、アイシロン製品の取り扱いを開始しており、4月20日からの新たなハードウェア2機種の投入によって、製品ラインアップを強化した。
「EMCのこれまでの買収の歴史をみると、4~5年後の成長分野に対して先行投資するというものが多い。アイシロンの買収もそれと同じ視点で捉えていい」(山野氏)
EMCにとって、数年先には本格的に到来するであろうビッグデータ時代に対する切り札のひとつが、アイシロンということになる。
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