間もなくゴールデンウィークが始まる。今年は例年以上に大型連休が取りやすいカレンダーで、旅行やレジャーなどを中心に消費の盛り上がりが期待されていた。
しかし、3月11日に起こった東日本大震災は、東北地方に甚大なダメージを与え、福島原発という社会不安を巻き起こしただけではなく、日本の消費マインドを急激に下げる要因となった。
連休中の国内旅行の落ち込みは30%以上ともいわれている。幸い、過剰なまでの「自粛ムード」は徐々に改善されているように思えるが、依然として消費マインドの低迷は深刻な事態だ。
さらに、未曾有の大震災は、一夜にして消費者の価値観をも変えてしまった。民間調査会社のシタシオンジャパンの調査によると、「消費行動を通じて社会に貢献したい」という回答は震災前後で約40%から70%近くにまで跳ね上がった。
多くの企業にとって、「今後のマーケティングにどう取り組むか」は悩ましい課題といえるだろう。いったい、企業は今後どのようなコミュニケーションを行っていくべきなのか。
ここで私が思うのは、これまで以上に世の中の「空気」と向き合うことが、企業にとって重要になるということだ。ここでいう「空気」とは、社会的な世論でもあり、消費者やマスコミの関心だともいえる。
この「空気」をつくるのが、戦略PRという手法だ。しかしこれからは、「空気をつくる」という発想に加えて、これまで以上に「空気を読む」というスタンスが重要になるはずだ。
この観点においても、ソーシャルメディアは企業のコミュニケーションにおいて切っても切り離せない存在となる。
大震災後、大手レンタルビデオチェーンのある店舗が、ツイッタ—で「地震報道ばかりでテレビがつまらない人はご来店ください」という趣旨の投稿をして大きな批判を浴びた。真意はともかく、これはまさに空気を読んでいない情報発信だったと言える。
また、大量にオンエアせざるを得なかったAC(公共広告機構)のCMに対しては、「内容がマッチしていない」「不快だ」などの苦情が殺到した。これは、公共広告というしくみの限界なのだが、結果としては空気を読まないコミュニケーションだと判断されてしまう。
いずれにしても、企業は慎重に、社会のムードや関心事を推し量っていき、「ここぞ」というタイミングで、「さすが」という内容を発信する必要に迫られる。
これを実行するには、マスコミ報道のみならずソーシャルメディアの体系的なモニタリングと、リアルタイム性を活かした戦略的な情報発信が不可欠だろう。
そして、企業は的確に「空気を読む」だけではなく、これまで以上に積極的に「空気」をつくっていかなければならない。これからの日本で消費を喚起するには、変貌した消費者のインサイトをしっかりと捉え、前向きな空気をつくることが重要だ。
大震災の経験を経て、人々は「みんなや社会の役に立つ消費をしたい」という強い気持ちを持ち始めた。戦略PRでいうところの「おおやけ(=商品が持つ公共性や社会性)」の要素が強まっているのだ。このことは、今後の商品開発やマーケティングにおいて大きなカギとなるだろう。
100年に1度とも言われる大災害で、国難ともいえるに直面した日本だが、この経験を通じて変われることもある。そのひとつに、「よりよい企業と消費者の関係」の実現もあるはずだ。
コミュニケーション領域に従事する我々は、そのことを肝に銘じて、これからの仕事に取り組んでいくべきだろう。
◇ライタプロフィール
本田哲也(ほんだてつや)
1970年生まれ。ブルーカレント・ジャパン代表取締役。戦略PRプランナー。米フライシュマンヒラード上級副社長兼パートナー。セガを経て、1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマンヒラード日本法人に入社。2006年にブルーカレントを設立、代表に就任。国内外の大手メーカーを中心に戦略PRの実績多数。著書に「その1人が30万人を動かす!」(東洋経済新報社)、「戦略PR」(アスキーメディアワークス)など。2011年2月に「新版 戦略PR」(アスキーメディアワークス)を上梓。
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