gTLDドメイン事業、競合は「海外」--JPRS東田氏が語る「これまで」と「これから」

別井貴志 (編集部) 岩本有平 (編集部)2011年04月08日 08時00分

 日本の国別コードトップレベルドメイン(ccTLD)であるJPアドレス「.jp」を管理する日本レジストリサービス(JPRS)は、2010年12月に設立10年を迎えた。

 JPRSの歩んできた10年は、日本のインターネットが隆盛し、普及した10年とも言える。同社はこの10年をどう振り返り、また今後どのような道に進むのか? 代表取締役社長の東田幸樹氏に聞いた。

--あらためて、JPRSの役割と設立の経緯について教えてほしい。

 そもそもドメインの仕組みを利用できるようになったのは1983年。当時のインターネットといえば、大学の教員関係者など学術系の世界の中でのやりとりだけで使われていた。その中でメールアドレスやドメインが必要になり、ドメインが登場した。

日本レジストリサービス代表取締役社長の東田幸樹氏 日本レジストリサービス代表取締役社長の東田幸樹氏

 当時、ドメインの管理はボランタリーで行っていた。しかしインターネットを利用する規模も拡大してきたため、1997年に社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が設立された。

 JPNICでは、IPアドレスの管理とドメイン名の管理、そしてその2つを結びつけるDNSサーバの運営という3つの事業があったが、このうちDNSサーバについては費用を頂かず、ドメインの登録料や更新料によって運営をしていた。

 当初は大規模なシステムを考えていなかったが、セキュリティや処理速度など、インターネットの普及につれ、ユーザーの要求もだんだん高まってきた。そうなると機材の充実や複数拠点でのDNSサーバの運用などが必要となるが、ドメイン名の登録料で運営している以上はドメインの数を増やさなければならない。しかし営業部隊がいるわけでもなく、サービスを企画するわけではない社団法人では運営が難しくなってきた。

 一方米国では、このような事業を民営化していたため「.com」ドメインが急増していた。.jpドメイン1件に対して.comドメインが10件増えるというようなペース。このままでは将来JPドメインがダメになると思った。

 こういった背景から、ドメイン名の管理とDNSサーバの運営事業を移管した民間会社JPRSを設立し、同時に(「○○.co.jp」「○○.ne.jp」とは異なる)「○○.jp」という汎用JPドメインの登録にも対応したというのが経緯だ。

 ドメインというのは公益性も高いが、事業としては競争も必要。当時は(米国のレジストラである)NSIが日本ベリサイン(ベリサイン)経由でドメインを売っている時。それに対抗する形での民営化だった。

--JPRSは、“JPドメインを売る”ということが命題となっていたのか。

 JPドメインだけ売ればいいという会社ではない。JPNIC時代から「なぜ.comや.netドメインを扱わないのか?」という声もあった。しかしそうなると、社団法人と民間との争いになる。であれば民間で運営してから考えればよいと思っていた。

 我々はスタートから「信頼性」「安定性」「利便性」「経済性」という4つのキーワードを掲げてきた。その4つのバランスをとりつつ、.jpを確固たるドメインにしたいと考えてきた。.comや.netといったgTLD(generic top-level domain)の取り扱いについて要望はあったものの、当時は爆発的にインターネットが成長しはじめた時期。JPドメインをやるだけで精いっぱいだった。

 JPNICがドメインを管理していた当時は大学関係者ばかりの会員ということで、ドメインの変更権限などは誰もが持っていた。しかし、ビジネスになるとそういうわけにはいかない。DNSの管理権限の設定やセキュリティの見直しといったことをしているうちに2、3年が過ぎてしまった。

 その後JPドメインは増加し、2006年には80万件となり、かつて1対10の比率だった.jp対.com、.netの割合が、5対5くらいになった。現在のJPドメインは120万件。JPRSスタート時の5倍の数字だ。しかし残念ながら、現在.jpのシェアは全体の35%くらいになっている。これは、.comや.net以外にも「.biz」や「.info」といった新しいドメインが出てきたことも影響している。

--JPドメインの卸値は、ほかのドメインと比較して高いという話を聞く。こういった意見について、どう考えているか。

 価格だけでなく、4つのキーワード(信頼性、安定性、利便性、経済性)のバランスを考えつつ、世界に先駆けたことをやっていくためだ。たとえばJPCERT コーディネーションセンター(JPCERT/CC)と連携してフィッシングサイトの調査をしたり、不適切なDNSの接続について調査したりしている。またDNSSEC(DNS Security Extensions:DNSのセキュリティ機能拡張)については、.comや.netに先駆けて対応した。

 ドメイン名は安価なほうがいい。しかしDNSサーバが24時間365日動いていないと、メールすら送れなくなってしまう。安さも重要だが、信頼性や安定性も重要だ。

 DNSサーバについては、スタート時には国内5カ所にコピーを置いていた。しかし東京に集中していたため、東京で何かあるとそれだけで.jpのインターネットが利用できなくなってしまう。そこですぐ大阪にもコピーを置き、次に海外にも展開した。現在では全世界26拠点にサーバを用意している。

 一番の脅威は攻撃。政治的、経済的な理由などで攻撃があるが、攻撃に強くないといけない。すでに経済はインターネットの上に乗っているため、インターネットを止めることは、軍事基地を1つつぶすよりも経済を混乱させるのに効果的になっている。

 我々はドメイン設定がセキュリティの観点から正しいかどうかも確認している。そういったことは.comではやっていない。こういった努力の結果もあって、McAfeeの調査では「最も安全なドメイン」という評価を2年連続(2009年、2010年)でもらった。

 これは危険なドメインの絶対数ではなく、割合での評価だ。また100万件を超えるTLDはJPドメインを含めて20もない。絶対数でも評価されていいと思う。

--JPドメインのシェアが下がっているとのことだが、これは価格の問題ではないのか。

 もちろん価格の問題もあるが、JPドメインをスタートした際に「1組織1ドメイン」を推奨したことも理由にある。また、欧米は独自性を出すためにドメインを別に立ち上げ、検索エンジンがとりまとめるという形が多いが、日本はポータルサイトが優れている。これもJPドメインが増えない理由の1つだ。日本の場合、楽天やYahoo!(ショッピングなど)、ぐるなびなどにある1つ1つの店舗がドメインを取得する訳ではない。

 そのため楽天やヤフーなどからは「もっと価格は高くていいから、安定的にJPドメインを運営して欲しい」という声もある。残念ながら個人レベルでは高いかな、とも思うが、信頼性や安全性は絶対。「NTTドコモからauにメールが送れない」というだけでも社会的な問題となる。

 また価格については、当初3500円で卸していたものを2250円まで下げた。日本語ドメインについては1125円にしている。日本語ドメインについては、普及を狙っていることに加えて、ひらがなやカタカナなど多くのパターンでのドメイン取得が必要になるため、この価格設定になっている。

--JPNIC時代からニーズのあったというgTLDの販売が2月から始まった。

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