gTLDドメイン事業、競合は「海外」--JPRS東田氏が語る「これまで」と「これから」 - (page 2)

別井貴志 (編集部) 岩本有平 (編集部)2011年04月08日 08時00分

 これについてはまず、「.日本」というドメインについての話をしたい。全世界的に「ccTLD(country code Top Level Domain)を各国語で表せるように」という流れがあり、.jpを日本語化したこのドメインについて、総務省が日本インターネットドメイン名協議会を通じて選定させることになった。

 総務省の答申書や協議会の内容を読むと、JPRSでなく新規事業者を選定した方が競争になるので良いという話があったが、一方でJPRSのユーザーからは、「JPRSがやるべき」との声も多かった。結果的にはJPRSしか応募がなかったため、我々が選定されることになった。.日本については、現在日本インターネットドメイン名協議会で詳細を検討しているところだ。

 この選定の際、JPRSのユーザー会ができたのだが、そこでユーザーから次のような声が聞こえてきた。

 .comや.netといったgTLDの仕入れ先となるレジストラは、GMOインターネット(GMO)やファーストサーバなど国内に10数社ある。彼らからドメインを仕入れたいが、実は彼らはホスティング事業やコンテンツ事業を手がけており、エンドユーザーに小売りしている。

 ドメインが必要な事業者といえばOCN(NTTコミュニケーションズ)やBIGLOBE(NECビッグローブ)、ニフティなど。これらの事業者は、ホスティング事業者という観点では、GMOなどのレジストラの競合になってしまう。そのため彼らは、米国やオーストラリア、カナダなど海外のレジストラからgTLDドメインを仕入れている。

 ドメインの登録は顧客情報をそのまま渡すことに等しい。競合に情報を渡さないといけないのでは困るので、自分たちのビジネス領域から遠いところ、もしくは中立な立場から買うしかないのだという。

 我々が調査したところでは、.jp以外のドメインの半数は、海外の事業者から買ったもの。なので日本語でのサポートや為替の問題なども含めて、「JPRSがgTLDを販売するなら是非買いたい」と言われた。我々はホスティング事業なども手がけておらず、競争になることもない。

 これであれば、国内のレジストラにはそんなに迷惑をかけない。我々が狙うシェアは、海外レジストラを使う事業者。調査したところでは、(gTLD全体のうち)60%くらいのところだ。日本で使われる.comや.netなどのgTLDは、推計200万~300万程度。ICANNの発表によると、国内レジストラが扱うのは100万件程度。その残りの2分の1、3分の1でも扱えれば日本のためにもなる。

 GMOを始めgTLDを扱うレジストラは脅威に感じているかも知れないが、我々のターゲットとは違う。競合として考えているのは海外のレジストラだ。海外から何万件とgTLDを買っている事業者が、その半分でも我々から買ってくれればビジネスになる。

--.日本の際にインターネットドメイン名協議会や総務省から「JPRSには競合企業があるべき」という答申があったとのことだが、実際gTLDでは既存の国内レジストラとの競合関係になるのではないか。

 「まったく競争しない」と言っているわけではない。ただ我々は(海外レジストラからドメインを仕入れる事業者からの)要望が多い。GMOなどからドメインを仕入れている方々からわざわざうちに、という要望はほとんどない。

--JPドメインの普及という観点では、JPRSがgTLDを取り扱うことは問題はないのか。

 これまで市場にJPしかなかったところでほかのドメインを投入するのではシェアは変わるが、すでに両方がある中で、gTLDの仕入れ先としての選択肢が増えるということだ。

JPドメインの普及という観点では力を抜くつもりはないし、ブランドイメージも変えたくない。ただ我々がgTLDをやることで会社としていろいろ意味は出てくる。人材面でのシナジー効果もある。たとえばDNSSECにしても、1人の技術者が.jpと.comの両方を担当することで効率が上がる。そうすれば結果的に.jpのためになる。

 また、JPドメインはトランザクションや削除時の扱いなど、ほかのドメインと異なることが多いと批判があった。国際的にはEPP(Extensible Provisioning Protocol)というプロトコルがあるが、JPドメインでは使用していない。JPNICからJPRSに移行する際にはまだ規格がなかったため、規格を独自に作った経緯があるためだ。

 その後規格ができたが、すでに設備投資もしているためすぐには環境を変えられなかった。このあたりについて勉強していくと、違いはいろいろあるが、似ている規格だと分かった。それならば我々が手を入れていける。それによって利用者にも貢献できるかと思う。

--gTLDのレジストラ事業について、反響を教えてほしい。

 実数は申し上げれられないが、事業者から多くの問い合わせや申し込みをいただいている。海外レジストラを利用する事業者が主な対象と考えているが、それ以外からも問い合わせがある。

 現在海外レジストラを利用してる事業者にJPRSを利用いただければと思っていたが、JPRSのサービス(品質)をgTLDでも求めている事業者がいたということと考えている。

 まだ始まったばかりであり、申し込みのすべてがサービスインに至っているわけではないが、信頼いただけていることはうれしく思う。

--ところで、IPアドレスの枯渇問題についてはどのように考えているのか。

 JPRSはレジストリシステムからDNSサーバの設定まで、すべてv6の対応は完了している。ただし、アドレスを割り当てているのはJPNIC。JPRSが何かを言う立場にはない。流れとしてはIPv6に向いているが、一気に変わるものではない。

 JPNICが苦労しているところだと思うが、利用されていないアドレスについて課金をするなどして、アドレスを返すことも促進できる。アドレスの付け替えや移転などもできるので、1年は持つのではないか。しかしそれだけで3~4年持つというものではない。

 我々の課題は「IPv6への移行」ではなく、「IPv4とIPv6が使われる中でDNSをどうやっていくか」ということ。技術的な手当ては済んでいるが、結局v6のアドレスを直接入力する人はいない。やはり重要になるのはドメイン名。エンドユーザーから見れば、ウェブやメールのアドレスが変わるわけではない。裏側に接続するのがIPv4かIPv6かということ。

 ただ、混乱は見られないだろう。日本のユーザーはリテラシーが高い。JPNICを中心にアナウンスをしていけば、大きな混乱はないのではないか。また国を挙げてIPv6対応をやってきたので、資産は蓄積できている。

--JPRSの今後について教えてほしい。この10年で考えたとき、既存事業以外を展開する予定はあるのか。

 民間企業なのでいろいろなことをできればいいと思うが、インフラ企業などから比べるとJPRSは大きな会社ではない。やれることは限られている。

 そういう中で利用者の声に耳を傾けて始めたのがgTLD。ここ2~3年はJPドメインと並行してこれをやっていきたい。また将来的には、ユーザーが共通して利用できるサービスはやっていきたいと考えている。具体的なことは言えないが、いくつかの分野を見ている。

 たとえばDNSの技術というのは、名前解決と呼ばれるドメイン名とアドレスのマッピングだ。これにはいくつか発展の形があると思う。車のナンバーをドメインに見立てるならば、将来すべての車がネット対応した際、この技術が必要になるのではないか。またSIP(Session Initiation Protocol:通話用のプロトコル)も日本ではうまくいかなかったが、概念としては同じ。IPv6ではアドレスが山のようにつけられるので、人と番号を対応させる可能性はいろいろ出てくるのではないか。

--第三者割当増資などの予定はあるのか。

 JPNICがまだ株式の20%を持っているので、それを民間企業に移すという考えはあると聞いている。しかし資金が足りない状態ではない。増資はあくまで手段。ビジネス的にはまずJPドメインとgTLDに注力する。

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