現在、クラウドコンピューティングとセットのようにしてよく使われる言葉が「コスト削減」だ。経営者や情報システム部門を対象にした各種の調査結果からも、企業がクラウドコンピューティングに期待している最大の要素が「コスト削減効果」であることが明らかになっている。まずはGoogleやAmazonのパブリッククラウドサービスを活用し、その成果を検証して、将来のクラウド活用に向けた指標にするといった動きがあちこちで見られる。
日本IBMがパブリッククラウドサービスにおいては、サービスレベルを99.5%とし、1時間10円という価格提案を打ち出してまで「コスト競争力」を前面に打ち出そうとしているのも、こうした流れに乗ったものだといえる。そして、Microsoftの「Windows Azure」を戦略的に活用する富士通にも同様の狙いがある。
しかし、逆説的だが、多くのベンダーはクラウドコンピューティングによって「コスト優先」となりつつある顧客ニーズからの脱却を狙っている。
富士通やIBMといったミドルウェアに強いベンダーは、運用管理やセキュリティの強化、多重化や仮想化、自動化での強みを生かして、クラウドコンピューティングにおける優位性を訴求しはじめている。NECも、社内システムのクラウド化を自ら実践することで、ミッションクリティカル分野におけるクラウド提案で一歩先んじていることを示そうとしているが、これもクラウドにおける信頼性の強みを訴求することが狙いだ。
背景には、クラウドでは後発となった日本のITベンダーが強みを発揮できる領域が「付加価値の提案」にあると考えているのに加えて、日本のITベンダーにとって、それが収益確保の早道になるとの判断がある。
実際、ITベンダー各社の幹部からは「今はコストメリットが優先された議論が多いが、これを早い段階で、信頼性が優先される環境へと移行させることが、確実に収益をとれる事業へと転換を促すことになる」という声が異口同音に聞かれる。
クラウドコンピューティング事業における付加価値型提案は、ミドルウェアなどを活用した「囲い込み」にも直結させることができ、そこにも中期的な収益確保という点でメリットがある。
しかし、現在の経営者の関心は、やはりコスト削減にあり、「クラウドコンピューティングはコスト削減の切り札になる」という認識が定着しはじめている。現時点で、テスト環境や新規ビジネスの立ち上げ時にクラウドを利用することが多いのも、コストメリットが重視されているからにほかならない。そして、景気の回復度合いや、これに伴うIT投資意欲の回復も、コスト優先から信頼性重視へのシフトに影響を与える。コスト削減と同等レベルにまで付加価値の認識を高めるには、しばらく時間がかかりそうだ。
あるITベンダーの担当者は次のように語る。
「クラウドコンピューティングはドアオープナーと位置づけ、その裏ではしっかりとしたアウトソーシングビジネスで収益を確保したいのが本音だ」
クラウドを前面に打ち出すITベンダー各社は、「クラウドはバズワードではない」として、クラウドコンピューティングの中長期的なビジョンを発表しているものの、本当の狙いは、やはり収益を確保できるアウトソーシング事業の推進にある。クラウドコンピューティングの範囲に、アウトソーシングまでを含めて議論していたベンダーが、パブリッククラウド、プライベートクラウドと、アウトソーシング事業を明確に切り離して議論を始めたことも、その表れのひとつととらえていいだろう。
クラウドコンピューティングはあくまで「見せ球」。その裏で、大規模なアウトソーシングを展開して利益を確保する……。そんなITベンダーの思惑が、今後は各所で見え隠れしそうだ。
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