ウェブにおけるコミュニケーションには、何よりもストーリーが必要です。この場合のストーリーとは、生活者の感情を動かすエピソードや仕組みを指します。トヨタ自動車新型ラクティスの発売キャンペーン「イマドキ家族調査 これってあり?」には、人間の感情を刺激するストーリーがありました。
新型ラクティス開発にあたって、トヨタは主要なユーザー層である子育て中の若いカップルのライフスタイルや価値観を徹底的にリサーチしました。その結果、家族のライフスタイルや考え方は、ちょっと前の家族とはガラリと変わってきていることが明らかになったのです。
そのような「家族はこうあるべき」とか「フツーこうだよね」とか、そんな過去の常識や体裁にとらわれず、新しいライフスタイルを次々と作り出す20代〜30代を中心とした新しい家族たちを、「イマドキ家族」と名づけることにしました。
そこでトヨタは、新型ラクティスの発売にあたって、そんな新しいライフスタイルや価値観を持つ「イマドキ家族」を巻き込んでいくことが大切だと考えました。そして「イマドキ家族」の「新しい常識」や「価値観の変化」を調査するために、いろいろな質問を投げかけ、「これってアリ?ナシ?」と意見をウェブやモバイルで投票してもらうという試み自体をキャンペーンに仕立て上げました。
イマドキ家族調査員として、女優の新垣結衣さんを起用。TVCMでは、「イマドキ家族」の集まる場所に、突如現れて質問を投げかけるという設定になっています。さらにウェブサイト「イマドキ家族.com」では、「子どもの誕生日に有休取っちゃう。これってアリ?」「ニックネームで呼び合う家族。これってアリ?」「ウチではパパもすわってトイレ。これってアリ?」「車庫入れはママが担当。これってアリ?」など、いろいろな調査項目が設定されていて、「ありなし」で答えていくことで調査に参加できるようになっています。
もちろん他の人たちが答えた、「ありなし」の割合も見ることができます。自分で新しい調査を作ることも可能です。また、「ありなし」以外にも、コメントを書き加えたり、Twitterでつぶやけたりするようになっています。
その他、イマドキ家族に関するいろいろなレポートも載っていて、サイト自体がイマドキ家族の集うコミュニティのような場になっているのです。10問以上の調査に答えると、キャンペーンに応募でき、抽選でギフトカードなどイマドキ家族手当でもらえるという、うれしい特典もあります。
このキャンペーンが新しいのは、メーカーから生活者に向かって一方的な提案になっていないところです。通常、新車が発売されたとしても、ほとんどの人間にとっては関心がない出来事です。
しかし、「イマドキ家族」というキーワードで「新しい常識」や「価値観の変化」を調査するということになると、自分に関係あると思ってもらう可能性が高くなります。つまり生活者が参加しようかなと思うストーリーが生まれるのです。実際に、2011年1月現在で5万人以上の人間が調査の質問に参加し、総回答数は220万を超えています。
このように、優れたコミュニケーションには必ずストーリーがあります。あなたの会社のウェブコミュニケーションには、インタラクティブなストーリーがありますか?
◇ライタプロフィール
川上徹也(かわかみ てつや)
広告代理店で営業局、クリエイティブ局を経て独立。フリーランスのコピーライターとして様々な企業の広告制作に携わる。また、広告の仕事と並行して、舞台脚本、ドラマシナリオ、ゲームソフト企画シナリオ、数多くのストーリーを創作する仕事にかかわる。近著に『キャッチコピー力の基本』(日本実業出版社)
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