Verizon WirelessからiPhone 4が発売になると発表された。これを受けて、日本でも同様にソフトバンクモバイル以外でもiPhoneが出る可能性が高まったのではないかと言われている。今後日本における展開や影響を識者はどう見るのだろうか。携帯電話研究家、移動体通信ジャーナリストとしてケータイ業界をウォッチする木暮祐一氏の視点とは。
このところのスマートフォンラッシュに感化され、各通信キャリアのAndroid端末を日常利用するようになったが、こうした各社のスマートフォンを使うほどに、iPhoneがいかに優れた端末であるかを再認識するようになった。スペックや装備などは、最新の国産スマートフォンのほうがはるかに豪勢に見える。しかし実際に使い比べると、機能や装備、そして技術的なスペックよりも、むしろ「全体のバランスのよさ」のほうが大切であることを実感させてくれる。
ハイスペックを追いかけたために、操作がぎこちなくなってしまったり、あるいは不必要に内蔵メモリを消費してしまったりする。iPhoneは各種機能や端末の操作性、バッテリの持続時間など絶妙に全体的なバランスを取りながら、最適な技術スペックでデバイスを構成しているのである。こうした「行き過ぎないスペック」で製品を作ることの重要さを教えてくれているのだ。
さて、今回VerizonでCDMA方式のiPhoneが正式発表されたが、なぜLTEではなかったのかなどの声も聞こえてくる。iPhoneのバランスのよさを知っているユーザーからすれば、その理由は明白だ。Appleからすれば、通信方式だけハイスペックにすることで端末のバランスを崩しかねないと考えたはずだ。LTEならばより大容量なデータ通信も可能となる。となれば「カメラはより高画素にして、動画系サービスも充実させて……」などと各デバイスや機能のハイスペック化も考えてしまうのが一般的な端末メーカーだろう。一方で「これでバッテリの持ちが短くなっては元も子もない」と考えるのがApple流なのだろう。
なにより、AppleはこれほどまでにiPhoneを全世界でヒットさせながらも、通信キャリアとの交渉や、販売展開には極めて慎重に、独自の考え方を貫きながら進めている。従来のケータイ端末メーカーならば、通信キャリアの要望があれば言われたとおりローカライズを実施し、通信キャリアのロゴがデカデカと刷り込まれた端末を納入するに違いない(実際、ケータイコレクターの筆者としては、こうした通信キャリア違いの端末を収集するのは至福の喜びでもあったのだが)。
Appleはこうした常識を覆し、「AppleはAppleである」ことを堂々と主張し、ケータイ業界の常識となっていた通信キャリアと端末メーカーの関係をも覆したのである。
さて、今回CDMA版が登場したことで、KDDI(au)でiPhoneが展開されるのではないかという憶測も飛び交っているようだ。しかし、こうしたAppleの哲学を、わが国の通信キャリア側がどこまで心得ているのだろうか。
おそらくソフトバンクモバイルは、Appleのこうした考え方をしっかりと受け止め、iPhoneには一切の通信キャリア側の都合を載せないことを確約できたからこそ日本国内での販売権を得たのだと思われる。一方で、NTTドコモやKDDIが、果たしてそこまで自らのビジネスモデルを妥協できるのであろうか? たとえばNTTドコモは、世界シェア1位のノキア、2位のサムスン電子の端末さえも「NTTドコモ」のキャリアロゴをデカデカと入れて発売してきた。KDDIもこうした商習慣を変えられずに来ている通信キャリアだ。
したがって、筆者は当面はiPhoneがNTTドコモやKDDIで展開されることはないと思っている。それでも、もし仮にiPhoneがこれらの通信キャリアで取り扱われる時が来たとしたら……、それこそわが国のケータイ業界の大きな転換点として評価すべきだろう。そしてケータイ業界が真のオープン化に向け、大きな方向転換を始める時となるのだろう。これまでの商習慣を見直すことは容易ではないだろうが、通信キャリアと端末メーカーの関係が改められれば、わが国のケータイ業界も大きく変わるはずだ。
1980年代後半より日本の携帯電話業界動向をウォッチし、2000年には(株)アスキーの携帯電話情報サイト『携帯24』を立ち上げ同ウェブ編集長に。 2002年5月にアスキーを退職し、コンテンツ開発会社広報担当マネージャーを経て、2004年11月に携帯電話研究家として独立。ユーザー視点からのケータイ関連記事の執筆、著作、番組企画、出演などをこなす。近著に『最新携帯電話業界の動向とカラクリがよーくわかる本』(秀和システム)など。1000台を超えるケータイのコレクションも保有している。木暮祐一オフィシャルサイト
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