「“スペシャリスト”の道も用意」--ミクシィCTOに聞くエンジニアのキャリアパス

鳴海淳義(編集部)2010年11月26日 11時00分

 ミクシィ取材の後半は、同社も人材の発掘には苦労しているという生の声だ。また企業には、採用した人材をどう活かすか長期的な視点も求められる。社員の約3分の1がエンジニアという同社の考えに迫った。

 そしてミクシィの求める“エンジニア”と一般的な“プログラマ”にも明確な違いがあるという。同社最高技術責任者(CTO)の佐藤ニール氏はこう語る。「エンジニアは自分にしかわからない改善や気付きを価値として提供できるはず。それが仕様書通りにモノを作るプログラマとの違いだ」とニール氏は話す。「おもしろい実装でもそれをしっかりとデザインチームに提案したり、企画者に伝えられる力がないと、エンジニアではなくただのプログラマになってしまう」。社内の他部署、社外のパートナーと協働できるコミュニケーションスキルが求められるということだ。

 勉強会などに積極的に参加して自ら学んでいくスキルも必要だ。「業界自体が若いのでどんどん自分で技術を吸収していかないと遅れをとってしまう」とニール氏は話す。同時になるべく情報発信をしていく姿勢も求められる。「いちエンジニアとして自分のノウハウを貯めるのではなく、業界全体を盛り上げられるような能力を高く評価しています」とのこと。

佐藤ニール氏 ミクシィ 最高技術責任者 佐藤ニール氏

 そして何よりウェブが好きであることが大切だという。「ウェブの制作に関わっている方の中には、夜遅くまで他社さんのウェブサイトを作って納品して、忙しくて全然ウェブを見る時間がないという人も多い。でも我々としては自分の仕事量をちゃんとコントロールしてもらい、家帰ってもウェブを使って遊んでもらえるような気持ちでいてもらいたい」(ニール氏)

 こうした想いはあるものの、実際のところ人材集めには苦労している。2009年夏にミクシィがソーシャルアプリケーションプラットフォームを開放して以来、SNS各社が相次いでオープン化に踏み切った。こうしたプラットフォーム提供側はもちろん、サードパーティであるアプリケーションプロバイダー企業でも需要が増し、一気にエンジニアの人材供給が追いつかない状況になった。

 「そもそもウェブの経験があるエンジニアの人数が少ない。10年以上の経験を持つ人はなかなか見つからない。僕自身も15年くらい。この業界自体が若いため、20年超える人はまずいない」

 そこでミクシィはエンジニアのニーズに合ったキャリアパスを用意した。「日本にいる30代のエンジニアは、いまちょうどマネージメント職に進もうか、どうしようかと悩んいる人が多いのではいか」とニール氏。だが米国、特にシリコンバレーではそのようなケースは少ないという。「向こうでは僕より上の40歳以上の方で、専門スキルや業界内のプレゼンスを生かして結構な給与で働いているエンジニアがいっぱいいる」。そんな環境がミクシィにもあるそうだ。

 「エンジニアにとって、自分のステップアップのためにマネージメントをやるというのは必ずしも正しいことではない。やはりスキルがある人、技術を追及できる人であれば、そういう人に合ったキャリアパスを選んでもらったほうがいい」

 ニール氏は次のように説明する。「マネージメント職というのは一番わかりやすいキャリアパスに見えるが、私達の場合は“スペシャリスト”の道も用意している。非常にスキルが高く、経験豊富なエンジニアの場合、他社ではどうしてもマネージメントのポジションでないと今後成長できない、つまり給与が上がっていかないと聞く。我々としてはエンジニアとしてのキャリアを追求したい人材が、処遇や給与にその能力を反映できるようにしている」。

 マネージメント適正はないがスペシャリストとして能力が高い人材も、マネージメントが得意な人材と同じようにキャリアアップしていく制度が整っているという。

 こうした人事制度があるのは社内でエンジニアがリスペクトされているからだとニール氏は語る。「エンジニアからはいろいろな要望が出るが、そこは役員も含め柔軟に受け入れてもらっている。僕もCTOとしては非常に幸せな環境にいるかなと思っている。エンジニアに必要なもの、たとえば開発環境やデバイスに関してコスト削減を命じられることはない」と明かした。

 社員の能力開発を支援するための「スキルアップサポート」の一部として、技術書籍購入のサポートや次世代端末購入のサポートも行っている。iPhoneやiPad、android端末など次世代端末購入費用の補助が受けられる。

 ただ求めているようなウェブ関連のエンジニアのパイが少ないのは事実。そのためウェブ業界自体を盛り上げるための取り組みにも注力しているという。「勉強会をやって長期的な視点でウェブ業界内のエンジニアが育つようにしていきたい。やはり短期的なことを考えていると、目の前の座席を埋めることに集中しがち。でも実際に必要なのは業界そのものを1%ずつ広げていくことなので、我々の方から情報発信をしたり、交流の場を作ったり、イベントのスポンサーをしたり、今後も積極的に活動していく」

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