システム構築におけるベンダーとユーザーとのトラブルを回避するために、ソフトメーカーが参加する社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)と、販売店やディーラー、システムインテグレーターが参加する社団法人日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)は、経済産業省の支援のもと、ベンダーとユーザーとの間での契約などに関するドキュメントを例示した「モデル契約第一版」、およびITの専門家がいない中小企業などを対象にしたシステム構築を行う際の契約を前提とした「モデル契約追補版」を公開している。
そして、これらの活用に向けて、情報システム取引のリスク、法的知識を有する人材を育成することを目的に、2010年7月から「情報システム取引者育成プログラム」を実施する予定である。6月8日、同プログラムの内容について、JCSSAが開催したサマーセミナーにおいて説明が行われた。
説明を行ったCSAJ常任理事であり、情報システム・ソフトウェア取引高度化コンソーシアム委員兼取引意識向上策検討ワーキンググループ主査を務める、アップデートテクノロジー代表取締役社長の板東直樹氏は、「モデル契約の策定は、2005年秋に東京証券取引所の取引システムの不具合が社会問題化したことに端を発している」と前置きし、「2006年には、産業構造審議会情報サービス・ソフトウェア小委員会から情報システムの信頼性向上に関するガイドラインが公表され、このなかで契約事項の明確化や、ユーザー、ベンダー間の取引関係などの可視化が必要だと指摘された。そこで、情報システムの信頼性向上のための取引慣行、契約に関する研究会を設置し、モデル契約を策定した。これをベースに、ベンダーやシステムインテグレーターが、情報システムの専門家としての説明責任を果たすことや、公平で適切な契約実務を実現すること、そしてユーザーとの協働によるプロジェクト推進が可能になる。それをより効果的に活用するためには、信頼性の高いシステム構築を実現するための人材を業界内に育成することが必要。これにより、ベンダーとユーザーとの間で発生しやすいトラブルを回避することにつながる」と、その狙いを語った。
では、ベンダーとユーザーの間で具体的には、どんなトラブルが発生しているのだろうか。板東氏はいくつの事例をあげてみせた。
1つめは、日本IBMとスルガ銀行の例である。
2004年にスルガ銀行がスタートした勘定系システムの刷新プロジェクトにおいて、スルガ銀行は日本IBMの債務不履行によって開発を中止せざるを得なくなったとして、日本IBMに対して、損害賠償を請求。その額は、新システムで得られるはずだった利益の過失分まで含めて111億700万円とした。これに対して、日本IBMは反訴。検収済みの成果物を含めて13億7400万円を請求。これは現在も係争中だという。
2つめは、販売店管理システムの新規構築において、ベンダーの見積もりがユーザーの社内稟議を通らず、システム導入が延期された案件だ。
ここではベンダー側はすでに請負契約は成立したと認識し、ユーザーが一方的に契約を解除したとして、1935万円の損害賠償請求を行ったというもの。キックオフミーティングの議事録にはユーザーが捺印をしており、すでに有償作業へと移行したことをユーザーは了解していたというのがベンダー側の主張だが、ユーザー側は契約締結に向けて3つの条件を提示したが、その確認が行われておらず、ベンダーが一方的に有償作業を開始したと反論。判決ではベンダー側の請求を棄却し、請負契約は成立していないとした。
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