日本のICT産業は世界市場での位置付けとして今後、愛知県から静岡県になる――。このように述べているのは、野村総合研究所(NRI)コンサルティング事業本部 情報・通信コンサルティング部主席コンサルタントの桑津浩太郎氏だ。
NRIによると、世界市場での日本のICT産業のシェアは、かつての15%から10%にまで下落。2050年には3%の水準にまで落ち込むと予測している。生産性や人口比などをもとにしたイメージで言うと、現在の愛知県から静岡県にまで下落した水準になるとしている。
桑津氏は、「日本はもはや特殊なポジションではなくなっている」とし、「欧米を中心に展開する愛知県のトヨタ自動車と言うよりは、静岡県のスズキやヤマハのように新興国向けに展開する必要がある」と説明する。
桑津氏は、日本の国際競争力強化に向けた方向性として、宇宙やロボットといった未踏技術、アニメやカルチャーといったコンテンツ立国、衛星や次世代ナビゲーションといった安全保障などを挙げている。だが、研究は続いているものの立ち上がり時期が分からないロボット産業や、基幹産業として課題の残るコンテンツ産業、軍事関連の需要を持たない日本にとって見劣りする宇宙産業など、いずれも日本の国際競争力を強化するには課題があるとしている。
こうした状況で日本の競争力を向上させるには、電力や水道、鉄道など社会インフラをICTで再構築するという手段があるとNRIは提唱する。また、社会インフラの再構築にICTを活用することで、ICTの国際競争力も向上できるというのが同社の主張だ。つまり、ICTを手段として活用しようというわけだ。
NRIは2月26日に開催した「ITと新社会デザインフォーラム2010」で、日本の電力や水道、鉄道といった社会インフラは2010年以降、本格的な更新期を迎えると発表している。また、国内のインフラ事業で蓄積した運用システムのノウハウを新興国に輸出することで、日本の国際競争力の向上やビジネス機会の獲得を図れるとの見解を示していた。
桑津氏はまた、「ICT単体は産業としての発展トレンドではない。他産業との連携が必要である」と提言している。これまでのICT産業は、携帯電話やPC、アプリケーション、サービスなどを普及させて拡大してきたとする。今後は先進国の市場が成熟化し、とりわけ日本の人口は減少傾向にある中、量的な成長だけでなく、無駄や環境負荷を軽減した最適化に重点を置くべきだとしている。
桑津氏はICTと社会インフラの連携について、「かつてのICT産業がデジタル化やネットワーク化といった更新サイクルを迎えてきたが、今回のサイクルは産業革命や鉄道、電気、自動車といった社会インフラの更新として捉えるべきだ」と説明。「(PCや携帯電話を持っていない人に持たせるという)ICTだけで完結して次の新たなトレンドを生むのは難しくなっている」(同氏)とICT産業が転換期を迎えていることを強調する。つまり、ICTはすでに主役ではなく、支援役にまわるべきだと桑津氏は主張する。
社会インフラにおけるICTの役割として、インフラの最適化と複合化、運用管理、パッケージ化を挙げる。最適化では、需給の監視や制御、資源の配置、キャパシティの管理など運営における需給の調整を担う。複合化では、異なる業種やサービス、インフラを横断的に管理する。運用管理では、現地のセンターで顧客対応などを担い、グローバルセンターで24時間365日集中的に監視する。パッケージ化は、海外市場に日本のノウハウを輸出する際、相手国に対して教育したり、提供したりする仕組みを作る。
例えばスマートグリッドでは、最適化でエネルギーの需給と供給を測定、制御する。エネルギーと水、交通、住宅など複数の基盤を一体整備するのが複合化。複数の基盤を24時間365日管理するのが運用管理となり、パッケージ化によりこれらのノウハウを海外市場に輸出するといった仕組みになる。
こうした手法は、鉄道や医療、自動車などの各分野に応用できるものであり、NRIはこうしたやり方で社会インフラを刷新すべきとしている。
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