ジュニパーネットワークスと東京証券取引所(東証)は3月8日、東証の新ネットワーク基盤「arrownet」に関する記者説明会を開催した。arrownetは大容量、低遅延での通信を可能にするほか、災害時でも業務が継続できる堅牢性、海外の金融機関との相互接続を視野に入れた拡張性と柔軟性を備えている。
説明会には、米Juniper Networksの最高経営責任者(CEO)のKevin Johnson氏とジュニパーネットワークスの代表取締役社長である細井洋一氏、東証の常務取締役兼最高情報責任者(CIO)である鈴木義伯氏が出席。1月4日に運用開始した新株式売買システム「arrowhead」のバックボーンネットワークであるarrownetについて、現在の稼動状況と今後の方向性を説明した。
鈴木氏によると、arrowheadの構築では「高速性」「信頼性」「拡張性」といった3つの非機能要件を重要視したという。現在の株式売買で重要な性能となる高速性では、注文受け付け通知の反応時間を10ミリ秒(ミリ秒は1000分の1秒)以下に、相場情報配信は遅延(レイテンシ)時間を5ミリ秒以下にすることを目指した。
信頼性は、99.999%以上の可用性の確保と24時間以内に復旧可能なセカンダリサイトの構築により担保。99.999%、つまりファイブナインクラスという可用性は、システムの停止時間が5年間で10分程度ということを示している。「99.999%以上の可用性がなければ、売り上げの損失や管理力の信頼低下を招くほか、顧客離れが進みブランドに傷を付けかねない」とJohnson氏はコメントする。
拡張性の点では、arrowheadはあらかじめ定めた拡張基準を超えた場合、1週間以内に対応できるように設計されている。5〜10年後までの拡張性を確保できるようにもされている。以前のシステムでは、拡張する際には、3カ月から半年ほどの期間が必要となっていた。
arrowheadを支えるarrownetも同様に、高速性と信頼性、拡張性という3つの非機能要件を重要視している。高速性では、アクセスポイントとセンターを結ぶ高速回線網に「WDM(光波長分割多重装置)」を使った光ファイバーリンク網を採用。アクセスポイントから業務システム間の遅延を2ミリ秒以下に抑えている。
信頼性についてはやはり99.999%以上の可用性を確保するとともに、アクセスポイントの分散収容という体制を取っている。光ファイバーリンク網の地下埋設率は99%にのぼり、災害時での業務継続も可能になっているという。
拡張性の点では、ネットワークのパケット伝送技術にMPLS(Multi Protocol Label Switching)を採用している。MPLSは、パケット内の経路情報にラベルを付加して、適切な転送先にパケットを送れるというもの。これにより各ルータの負担が軽減され、大容量、低遅延での通信が可能になる。
鈴木氏は、「arrownetは、arrowheadを構築していく上で重要なネットワーク基盤」と位置付け、「世界の取引市場と同等もしくはそれ以上の条件で競い合うことができる」と説明する。
実際にarrowhead導入後の売買状況を見ると、旧システムと比べて注文数は増えているものの、約定率は下がっているとしている。また、全銘柄のTICK回数(売買成立の件数)も約2倍ほど増加しており、「市場の流動性が高くなり、取引しやすくなっている」(鈴木氏)と説明している。鈴木氏は今後の展開について、「技術の高度化に合わせて売買システムの高速化を図るとともに、(東証で)海外取引をする6割の人たちにも取引のしやすさを提供する」としている。
ジュニパーはMPLSネットワークであるarrownetでエッジルータ「M 320」と「M 120」、ネットワークOS「Junos」をそれぞれ提供している。
Mシリーズは、MPLSネットワーク仮想化や低遅延マルチキャストなどの機能を備える。arrownetでは、Mシリーズを二重構成で組み合わせたリング構成を採用し、耐障害性に優れているとしている。また、ユーザーが意識することなくセカンダリサイトに切り替えられ、取引参加者の負担を軽減できるようになっているという。加えて、ジュニパーのルーティングプラットフォームで一貫して使用されるJunosでは、東証がネットワーク運用コストを大幅に削減するのに必要な時間を短縮できたとしている。
Johnson氏は、「大手証券会社の株取引アプリケーションにおける1ミリ秒の優位性は、年間1億ドルの差を生むとみられる」とし、「取引システムにおけるいかなる遅延もなくさなければならない」と述べている。
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